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テンポラリー通信

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2011年 12月 02日

雪降って、晴れてー烈々布(13)

陽射しが明るく、雪面に映える。
目が痛いくらいだ。
会場に着くと、廊内は強い雪光りの反射光に満たされて、
銅板に打刻された文字の亀裂が、小さな光りの隙間となって
宙に浮かんでいる。
自らの文字を銅板に叩き込む詩人の強烈な意思が、文字の彫刻と
なって浮かび上がっている。
これは床に敷いた状況では決して見る事が出来ないものだ。
激しく集中してハンマーを奮い、打刻された一撃一撃が光に透かされて
揺れているのである。
中央吹き抜けを抜く巾36・5×478の銅板の姿は、龍のようでもある。
宮崎駿の傑作アニメ「千と千尋」の、ヘドロの汚泥を薬湯で洗い流した
川の神が空に昇天する場面を思い出していた。
会場の鴨居の高さにぐるりと横に廻された他の3巻の銅板もまた、
龍の舞いのようである。
銅板の保つ柔軟にして強靭な皮膚感が、その内側から詩人の強靭な
意思を受け止め、拮抗している。
それが外から射し込む光とともに、見飽きる事のない有機的な物体と
化している。
流れる本人のCD録音、朗読「石狩シーツ」。
これが作品と一体化し、前期の草稿展示とは決定的に違った効果を
もたらしている。
これは、目に見える打刻の律動と朗読の声の律動が響き合って
共鳴しているからである。
眼は、銅板に叩き込まれた文字を意味よりも彫刻のように見ていて、
その打刻の律動に詩人の声の打刻が音響として重なるのだ。
前期では「石狩シーツ」草稿の文字の意味が主役であり、朗読の声
もまたそのように空気中に及んでいた。
しかし今回の銅板長尺4巻の空間は、眼が主役となっている。
すると声もまた打刻のように、撃ち響くものとして空間を満たすのである。
吉増剛造の詩の朗読が保つ打刻のような強弱の律動が、彫刻と共鳴し
空間化しているのだ。

次第に光は高くなり、時が進む。
朝の美しい光は翳を帯び、入射角度が変化している。
午後には午後の光の翳ろいが・・・。
夕刻には夕刻の青い翳が、光を沈める。
展示2日目。
銅板の薄い龍の羽衣が、冬の光のヴェールを纏って美しい。

*吉増剛造展「石狩河口/座ル ふたたび」-12月1日(木)-31日(土)
 am11時ーpm7時・月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

# by kakiten | 2011-12-02 12:28 | Comments(0)
2011年 12月 01日

「石狩河口/座ル ふたたび」展ー烈々布(12)

非常に有機的な美しい展示となる。
協力してくれた川の友人河田雅文さんには感謝である。
夜の照明の光、今朝の冷たく晴れた午前の光。
銅板の保つ独特の粘りある柔らかさと強さ。
そこに打ち込まれた詩人の打刻文字。
床に敷いた時の視界の狭さ、距離の短さでは見る事の出来ない
ある俯瞰する作品空間が、吊りと張り巡らされた設定によって実現した。
空間はあらためて広さだけではないと感じる。
吹き抜け上部に見える「石狩シーツ」草稿とともに、時間の垂直軸が
重層して空間を充たしている。

昨日新たに銅板を挟む器具を購入し、さあ展示という時に某TV局の街角
探訪取材陣が乱入し、15分という前置きが1時間近くにもなり設営が遅れ
た。北大の学生達が大学周辺の街を探訪するという設定で、いかにも
北の場末に生きる住民発見のような、地域を固定した番組だった。
地域と共に生きて地域に閉じていく趣旨なので、どこかでぶつかるなあ、と
思っていたが、案の上質問者が吉増ゴンゾウさんと言った辺りから、善良な
市民・住民の役割を演ずることはできなくなった。
コンテンポラリーとテンポラリーの言葉の意味から始まり、カルチャーと
カルチヴエートの語義を展開しだすと、デレクターはもうお手上げという顔
をしていた。
こちらも2日間がかりの展示大詰めで、気が立っていた所為もある。
まあ多分放映には至らないだろうが、この手の番組のやらせ的シナリオには
先に結論が見え透いていて、駆り出された学生たちも半ば呆れていた。
地域に根差し、地域に貢献している善良な市民という絵である。
地域から発して、地域に収斂される。
そんな町内会の顔役のような立場にはいない。
私自身は札幌漂流者であり、一部の地域だけに生きているとも思っていない。
トータルで石狩国の住民であり、札幌の住民である。
近々多寡が何十年しか経ない一地区を固定しそこに収斂させる地域賛歌から、
今展示中の吉増剛造展の意味が伝わる筈もないのである。
話に興味が湧き収録終了後も残った学生達と話した後の時間の方が余程活き
活きとした時間だった。
本来の若者らしく、素直に好奇心と探究心に満ちていたからだ。
”吉増ゴンゾウさん”と口走った学生も、未知の知識を広げたようだった。
知らない事は恥ではない。
知ろうとする事が重要なのだ。
そうした視線で番組を作るならまだしも、先に想定された主題が陳腐では、
若者たちからも失笑を買う事となる。
まあTVに出れるから良いや、という気楽で屈託のない笑顔ではあったが・・。
それにしてもなんとも頑固で可愛くないおっさんとTV局の担当者は思って
いただろう。
TVに出る事に感激もしてくれない。有り難がってもくれない。

そんなハプニングがありながらも、無事夕方遅く展示が完成した。
ギラリと鈍く赤銅色に光る銅板を見ながら、作家の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
吉増さん、どうぞ立ち会って下さい。
私たちの石狩の長い時間が、一点に凝縮して深く木霊する空間となりました。

*吉増剛造展「石狩河口/座ル ふたたび」-12月1日(木)-31日(土)
 am11時ーpm7時・月曜定休。
 
 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

# by kakiten | 2011-12-01 11:55 | Comments(0)
2011年 11月 30日

展示苦労するー烈々布(11)

柔らかくて滑りやすく、そして重い。
銅版長尺(36・5×478)。
大きな広い会場なら床に敷いて見せられるだろうが、
ここはそんな広さが無い。
唯一吹き抜けの高さはある。
そこで天井から吊って展示と思うのだが、これがなかなか滑って
留まらない。
かといって繊細な薄い銅版である。
傷付けたら大変だ。
長さが5m近いので、縦に垂らすと結構な重さになり、
挟む金具が表面を滑るのである。
河田雅文さんと四苦八苦する。
それで昨日は一日暮れた。

今朝一面の銀世界。
銅版が雪明りに鈍く赤銅色に光っている。
夜の電気の照明とはまた違う表情である。
挟んで傷付けず滑らないよう器具を探し、今日も一日展示集中。
柔らかく、重く、存在感ある色調。
銅板というものは、まるで作者の吉増剛造のようだ。
そして何故か懐かしい。
前の店舗の壁が、この銅板で覆われていたからだ。
時間とともに、鈍く渋味を出して色も深味を増す。
鉄板にはない銅板の良さである。
その銅板の長尺にびっしりと詩行が、打刻されてある。
時々の日付・場処も入って重厚である。
この文字の絵巻物が、ぐるりと壁に周り、かつ一本上からぶら下がる。
日中の光の変化と共に、文字も銅板も何事かを語り光に揺れる。
「石狩河口/座ル ふたたび」展。
銅板は時の流れに棹差して、烽火・旗竿のように時の川面を映し出すのだ。

*吉増剛造展「石狩河口/座ル ふたたび」-12月1日(木)-31日(土)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

# by kakiten | 2011-11-30 11:37 | Comments(0)
2011年 11月 27日

銅版長尺4巻到着ー烈々布(10)

踊るような朱色の達筆な文字とともに、吉増さんの銅板長尺4巻到着する。
さあ、これで来週からの展示の準備は出来た。
梱包を解いて開けるのが今から、わくわく・・。
そして、どう展示するか・・・。

前座の’94「石狩シーツ」草稿を主とする展示も今日で終了。
昨夜は6年ぶりに後志のNさんが見え、今回の展示も見て頂いた。
その後Nさんも旧知の宇田川洋さんの店へいく。
道東・常呂時代の宇田川さんをよく知っていて、一度札幌の店を訪ねた
かったという。
人の縁とは不思議なもので、こうして今時空を超えて繋がるのである。

*吉増剛造展
 前期「’94石狩河口/座ル 石狩シーツ誕生」-11月27日(日)まで。
 後期「石狩河口/座ル ふたたび」-12月1日(木)-31日(土)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1ー8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

# by kakiten | 2011-11-27 11:54 | Comments(0)
2011年 11月 26日

寒気鋭くー烈々布(9)

昨日は冷え込む。
ちょうど灯油も切れて、寒気に体が固まる。
訪れる人も無く、依頼された原稿に集中する。
大きな呼気の入口・石狩河口から、小さな吸気の入口・川の源流まで。
17年前の界川と夕張川の石狩河口からの旅を、呼気と吸気の間・身体の
ようにして経験した、<石狩>を思い出していた。
そしてそこから生まれた長編詩「石狩シーツ」の誕生に、遠い奥多摩と石狩の
<ランド>の交感をも感じていたのだ。
絹の道<女工さん・織姫>と石炭の道<女抗夫さん>の奥地の近代の子の
ように。

来週から、「石狩河口/座ル ふたたび」展が始る。
土中の見えない固い種子のように、注目を浴びる訳でもなく、場末の寒い
小さなギヤラリーで、綿毛のようにふわふわとここまで流れ飛んできた
17年が、また小さな蕾をふくらませ、時と出会うのである。
その時この場もまた、ささやかで小さな<ランド>である。
遠い時間の呼気と吸気を繋ぐ<身体>として、テンポラリー<ランド>は
吉増剛造<・・・・ ふたたび>展を迎える。

*吉増剛造展
 前期「’94石狩河口/座ル 石狩シーツ誕生」-11月27日(日)まで。
 後期「石狩河口/座ル ふたたび」-12月1日(木)-31日(土)
 am11時ーpm7時:月曜定休。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011ー737-5503

# by kakiten | 2011-11-26 12:43 | Comments(0)