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テンポラリー通信

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2020年 09月 29日

1980年代の風ー木は水を運んでいる(7)

中村恵一さんの「美術・北の国から」は、彼が1978年4月
から丸4年間北大在学中に触れた札幌での美術・人の記憶を主に
綴った文章である。
静岡県浜松市から北大に入学し、気候も風土も違う未知の大地
で10-20代の若々しい感性が新鮮な響きを奏でている。
今となれば懐かしい故人の姿も多く、こうした形で札幌の
美術シーンを思い出すのが私にはとても新鮮だった。
一原有徳さん、長谷川洋行さんとNDA画廊、森ヒロコ、クラーク
画廊、旧三岸好太郎美術館、神田日勝、ギャラリーレティナ、
藤原瞬、ギャラリーユリイカ、駅裏8号倉庫と、この時代の一線
を画した人と建物・ギャラリーが目に浮かぶからだ。
世の中はバブルの全盛期でもあり、良くも悪くも活発なエネルギー
に溢れていた時代である。
急速に古い建物が消え、それに抗うエネルギーも溢れていた。
当時の若き中村君は、その好奇心・若い感性の赴くまま、そんな
人と時代と作品に触れている。
そんな中に私もテンポラリ―スペースとともに、一章を割かれて
掲載されていた。
以前の北円山時代に配達助手のアルバイトでいたのをよく覚えて
いるが、その時代の旧店舗写真と現在のテンポラリーの写真も
載って激動期の私の小さな活動も記されていた。
私などはおこがましいが、こうして中村さんの眼を借りて振り返る
と私もまた時代の荒波と戦い、今があるのが実感されるのだ。
1978年から4年間、若く瑞々しい感性が捉えた北の都市の活き
活きとした時代の記憶を、2020年の今も大切に、一冊の本に纏
めた中村恵一の今も変わらぬ瑞々しい感性に深い敬意を捧げる。

*花人・はなや展ー10月8日ー10日am12時ーpm7時
*紺屋纏祝堂個展「上空の水面(じょうくうのみなも)」ー10月27日
 ー11月1日

 テンポラリ―スペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503



by kakiten | 2020-09-29 17:15 | Comments(0)
2020年 09月 26日

三冊の私家版本ー木は水を運んでいる(6)

この一週間の間に三冊の優れた私家版の本が贈られてきた。
中村恵一さんの北大在学中に触れた札幌風景と美術・人・青春の
回想記録「美術・北の国から」。
吉原洋一さんから私家版400部限定「高見順賞50年の記録」。
山里稔さんの自作造形全記録「山里稔の制作思考」。
いずれも<書物>という言葉を革めて実感させてくれる美しい造本
・内容である。
それぞれの人生が一冊の本・書物に凝縮されて、ただただ素直に
掌(たなごころ)に受け止め、沈黙だ。
こうしてパソコンに打ち込む行為とはひと味もふた味も違う、本
その物を内容とともに創り上げていく、心のおにぎりのような
味わいがある。
中村恵一さんの青春そのもののような青い装丁と写真。
高見順への敬愛溢れる680余頁の1971~2020年50年
の記録。編集された吉原洋一さんの深い想いが伝わってくる。
山里稔さんの美術人生全記録といえる1960年から2019年
までの作品が柔らかな和紙のような紙に背表紙を糸で手編みし、
掌にちょうどすっぽりと収まる和装本に凝縮している。
この三冊に共通していえる特徴は、いずれも掌(てのひら)に収まり
溢れ出る<書物>という質量の実感だ。
掌(たなごころ)という心が、両手に受け止められる気がする。
指先だけで文字を打ち込み、印字されるデジタル全盛の作業では感じ
られない<本>=書物化という創造行為なのだ。
文字を綴り・文字を納める函(書物)という全行程を含めて本がある
と、革めて感受した。
言い換えれば、両手・両足を使い五体五感の全行程を<旅>という
ように、移動という座す行為の延長を<トラベル>という違いに近い
のかも知れない。


*「追伸ームラギシ」展ー10月11日〈日)まで。
 月曜定休・水・金曜日休廊。
*紺屋纏祝堂個展「上空ノ水面」ー10月27日(火)ー11月1日((日)
 am11時―PМ7時

 テンポラリ―スペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-ー737-5503




by kakiten | 2020-09-26 14:56 | Comments(0)
2020年 09月 20日

”追伸”の終わりにー木は水を運んでいる(5)

ムラギシの遺した一点の油彩画。
四国・高知の鏡川で水死した一年後の2007年8月、追悼展
村岸宏昭の記録展が催された。
その時高校時代のムラギシの親友原隆太君が訪ねてきて
今回の展示のきっかけとなった油彩を置いていった。
追悼展では村岸宏昭のインスタレーションの再現や遺された
楽譜の展示が主体だったので、この遺された2002年制作
と思われる油彩画はそのまま私のギャラリーの収蔵庫に眠って
いたのだった。
現在世界を駆け巡るコロナ禍の渦の中で、ふっとムラギシの
膝を抱えうずくまる油彩画の存在を想起していた。
死して15回目の夏を迎え、この遺された油彩画を軸に”追悼”
ではなく、”追伸”として同じ収蔵庫に眠る作品たちと一緒に
ムラギシの原点を再構成してみたいと思った。
上半身は描かれず、下半身のみが宙に浮いているような両脚。
そしてその両脚を抱え支えるように描かれた細く骨の露出して
いるような両手の指先。
四本足から二本足に進化した人間の立つという行為の原点、両脚
という縦軸が弱弱しく立つ場すらあやふやな足元である。
そしてその両脚を抱いている肉の薄い、骨だけのような両手・指。

グローバル化という物流の世界軸に乗って広がったコロナウイールス。
一地域の枠から物流の増幅し巨大化する横軸回路が人を介して世界中に
物を運ぶ現代社会構造。
そう考えた時ムラギシの、うずくまる縦軸の絵画構造は私に佐々木方斎
の20代の代表作「格子群」を呼び寄せ、昨年沖縄のアトリエから
初めて世に出た豊平ヨシオの「亀裂」作品を呼び寄せたのだった。
「格子群」の縦軸に3本の横軸が交叉する純粋抽象作品。
一方「亀裂」の作品は沖縄の空・海を象徴するようなブルーの地に、
縦一直の亀裂が入る作品群だ。
この二作品をそれぞれの風土・時代と捉え、抱き合わせて構成した。
さらに横軸の現代社会を、鏡面ステンレスを使い、映り込むすべてを
横に揺れ、歪ませる一原有徳の3点セットの作品を斜め前に置き際立
たせた。
10代のエモーショナルなムラギシの傷だらけの両脚の縦軸。
数学の純粋定理のような、北大数学畑出身の佐々木方斎の格子群の縦軸。
沖縄の基地と観光に攫われた現実を、亀裂と空と海の青だけでアトリエ
を埋め尽くすように20年以上制作し続けていた沖縄・豊平ヨシオの亀裂
の縦軸。
この世代も出身地も違う作品たちが、時代の縦軸喪失という同時代の裡に
響き合い木魂し、コン・テンポラリーな世界を奏出していた。

死後一年後親友原隆太君の手で運ばれてきた一枚の油彩画。
その<追伸>への応えをやっと少し果たせた気がする。

*「追伸・15回目の夏ームラギシ」展は9月27日〈日)まで延長
 致します。但し月曜定休・水・金は休廊と致します。
 am12時ーpm7時ー火・木・土・日。
*若林和美展「上空ノ水面(みなも)」ー10月27日ー11月1日

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011ー737-5503
*temporaryーphoto https//temphoto.exblog.jpー会場写真見れます。






by kakiten | 2020-09-20 15:03 | Comments(2)
2020年 09月 17日

夏の終わり・・ー木は水を運んでいる(4)

朝・晩 涼気が漂ってきた。
夏の終わりに「追伸・15回目の夏ームラギシ」展を催し
作品は今も人を運んでいる・・遺されたムラギシの一枚
の油彩画を通して深く感受するものがあった。
生前一度も逢う事のなかった佐々木方斎、一原有徳、豊平
ヨシオ各氏の作品たちが、作品同士で木魂し、互いを深めて
いた気がする。
同様にムラギシと同年齢の歌人山田航さんの逢えなかった
友への短歌作品4首も花を添えてくれた。

ムラギシが最後の個展期間中作曲し自演し制作したCD「銭箱ー
星置」をこの期間会場に流していた。
銭箱海岸の波音、星置の川音を演奏の背後に配して、ムラギシの
水への想いが深く沁み出るような曲・演奏だ。
2006年7月最後の個展中毎日これを販売していて、売れて増
刷の度に喜んでいたのを思い出す。
”これで会場費出たですよ・・!”
そう言えば会場でメイン展示の川音を仕込んだ白樺の幹も買い手が
いると遺作集の日記に記されている。
これも増産を考慮している記述もみえる。
自作自演のCD表面に曲名は自筆で「銭函ー星置」と記載され
ているだけの味も素っ気もないものだ。
銭函という地名もそのままで、こうしたある種リアリズムと深く
沁み入るような浪漫が、素のまま併存しているのが、若さという
ものだろうか・・・。
思えば<銭函>ー<星置>というこの曲のタイトルになった地名
も象徴的である。

鋭い現実観察力と過剰なまでの浪漫力・・・。
その両端の狭間を透き清めるように、作品という空間が必要だった
のかも知れない。
高知・鏡川という北海道に少ない、深い急流の川で溺れ死んだ
人生は、彼の現実と浪漫の狭間を生きたムラギシ自身の<星・置き>
だったのかも知れない。

<追伸>として私が感じた遺された一点の油彩画は、そうしたムラギシ
の鋭く深い現実洞察のタッチとして、現在のコロナ禍の回路現実にも触
れていた。

*若林和美展「上空(そら)の水面(みなも)」ー10月27日ー11月1日
 am12時ーpm7時

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503




by kakiten | 2020-09-17 16:21 | Comments(0)