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テンポラリー通信

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2019年 10月 26日

樹木という身体ー荒地(1)

朝、歩いていて目眩がした。
いつも近道に斜めに通過する道角の公園。
そこのベンチで休む。
目眩が止み、ふっと眼を上に向けた。
砂場の傍に立つ一本の大きな木。
近道に通り過ぎていた時には、気が付かなかった。
樹枝と幹、梢と葉の美しさ。
久しぶりに感じる樹の身、幹・梢・枝葉。
梢は光を求めて空にむかって根を張り、根は水を求めて、
土に根の梢を伸ばす。
その垂直な生命の時間が、天地に立つ樹木全体に溢れていた。
きっと公園になる以前から此処に立っていた樹なのだろう。
垂直に立ち、天地を全身で抱いていた。
そして、想った。
人間が遠い昔四つ足だった頃、世界は躍動する横軸の世界。
ジャガーやライオン、馬や鹿のように疾駆していた。
前足が両手となり、二本足になって人間は初めて縦軸の
垂直の世界にも生きるようになる。
動物的生き方と植物的生き方の両方を保った生き物が、人間。

何時か、移動の直線・横軸主体の都市構造に疲れていた。
植物・動物両方の視座・生き方の存在を、目眩の休息・坐
る・ベンチが教えてくれる。
<空にむかって眼をあげ>は、死者だけのものではない。
空と土に向かって根を張りー光・水に触れるのが、活きた
人間の本来の生き方でもあるのだ。

 テンポラリ―スペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503


by kakiten | 2019-10-26 15:20 | Comments(0)
2019年 10月 23日

都市の起点ー子の近代(10)

宮城県牡鹿半島鮎川への旅は、私の鮎川信夫への旅でも
あった気がする。

昨日夕刻大学出版に関わる仕事で来札した竹中英俊さんが来る。
今月の訪問では、私の先輩門倉弘さんの関わった本「芸術・国家
論集」を持参するという事前連絡があった。
そこでふっと棚奥に袋に詰めてある早稲田大学新聞の古い束を想い
出し、引っ張り出した。
竹中氏の持参される本に登場する論者達は、すべてが門倉先輩の
時代に大学新聞の常連で書いていた人たちだったからである。
中村宏、大久保そりや等々・・。
引っ張り出した袋にはその他色々なものが詰まっていた。
札幌に帰ったころ札幌でも主版されていた「読書北海道」新聞、気
になった記事の載る朝日・読売・道新等の新聞紙。
そしてその中に友人たちと出していた「プロヴォ」という状況論誌
があった。
その一冊、かって私が書いた<都市の起点ー鮎川信夫「白痴」抄描>
が載っているではないか。
読み返し、今回の旅で感じた鮎川信夫への焦点が、すでに予感される
ように展開されている事に驚きを抑えられない。
以下引用。

 ひとびとが足をとめている空き地には
 瓦礫のうえに材木が組み立てられ
 槌の音がこだまし
 新しい建物がたちかけています
 やがてキャバレー何とかとか
 洋品店何々になるのでしょう
 わたしはぼんやりと空を眺めます
 ビルの四階には午後三時から灯がともり
 踊っている男女の影がアスファルトに落ちてきます

               「白痴}1951年「荒地詩集」

戦後間もない時期に記された鮎川信夫の詩行は、私達の<空き地>
から<都市>の始まりを、白黒の記録写真のように確かに捉えて
いると、私は感じている。
ーーー
空襲と爆撃が残した可視の廃墟が、不可視の廃墟へと暗転する
一瞬を、私は、ひとつの<始まり>と思うのだ。
ーーー
戦後の都市の始まりを、<ぼんやり空を眺め>る行為によって
受け止めた鮎川は、<空にむかって眼をあげ>という明白な一行を
意志する事で「死んだ男」を1955年にもう一度書く。
それは「埋め立て」と「解体」の上に浮かび上がった都市の構造を
敗戦後の<廃墟>と<死者>の眼差しによって透視するものだ。
私達の<都市>に対する起点は、そこを起爆点として<摩天楼>か
ら<鹿鳴館>まで撃たねばならぬ。
                 (プロヴォー7号載)

すでにこの時ふたつの近代への視座が語られている。
摩天楼=タワービル群、鹿鳴館=という洋館街。
明治以降大正・昭和初期のモダニズム・都市化。
敗戦後の米国化モダニズムの市街地化。
復興の足元に横たわる<埋め立て>と<解体>を、死者の目線から
透視した鮎川信夫の1945年の視座は、今も近代と現代を繋ぐ橋上
人の、ラデイカルな視座として現在に繋がるものと思える。


 テンポラリ―スペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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by kakiten | 2019-10-23 14:32 | Comments(0)
2019年 10月 17日

遺言執行人ー子の近代(9)

 たとえば霧や
 あらゆる階段の足音のなかから、
 遺言執行人がぼんゃりと姿を現す。
 -これがすべての始まりである。
 ・・・・・・
 いつも季節は秋だった。昨日も今日も、
 「淋しさの中に落葉がふる」
 その声は人影へ、そして街へ、
 黒い鉛の道を歩みつづけてきたのだった。
 ・・・・
 埋葬の日は、言葉もなく
 立ち会う者もなかった。
 憤怒も悲哀も、不平の柔弱な椅子もなかった。
 空にむかって眼をあげ
 きみはただ重たい靴のなかに足をつっこんで静かに横たわったのだ。
 「さよなら、太陽も海も信じるに足りない」
 Mよ、地下に眠るMよ、
 きみの胸の傷口は今でもまだ痛むか。
 
        (鮎川信夫「死んだ男」第一連と第四・五連から)

連日続く19号台風・大雨被害被害地の報道画面を見ていると、昨年
今年と初めて訪ねた栃木県足利市界隈、宮城県石巻市界隈の風景と今
が重なり、かつ8年前の2011年3月11日の東日本大震災の今も
工事中の防潮堤、廃校・墓石群等の風景が重なる。
繊細で弓形の海に浮かぶ日本列島。
海に囲まれ豊かな山と森と川の島国。
その地を戦災が覆った70余年前1945年。
そしてさらにその70余年前に鎖国を解き、文明開化の旗の下近代日本
が出発したのだ。
近代化とともに新たな文化がモダニズムとして芽生えていく。
そのひとつの破綻を冒頭鮎川信夫の詩は伝えている。
地震・水害・風害といった自然災害と人災である戦争災害とは違うかも
知れない。
しかし人を取り巻く社会環境、国家・社会と、生命を取り巻く宇宙、
地球・自然環境とは人間の基本的基幹環境なのだ。
鮎川信夫の戦後直後に発表された冒頭の詩は、何故か今こそ胸に沁みい
るものがある。
原子力に象徴される<爆弾><発電>の相違が近代150年余の近代と
現代の分岐界にあって、今暗渠のように流れている気がする。
宮城県牡鹿半島の繊細な岸辺たち。
里海の美しい光と波の波長。
栃木県足利地方の遠い生垣のような優しい山たち。
里山の豊かな恵み。
この人間社会と自然世界の両方が音立てて崩れ、光と水と風を蝕む。
そんな時代の予言のように、鮎川信夫の「遺言執行人」が姿を顕すのだ。


空にむかって眼を上げ
きみはただ重たい靴のなかに足をつっこんで静かに横たわったのだ。
「さよなら、太陽も海も信ずるに足りない」

この<重たい靴>と<太陽も海も信ずるにたりない>の呟きの内に
国家・社会と地球・自然の傷口が、陰画のように今という時代が見
える気がする・・・。

 テンポラリ―スペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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by kakiten | 2019-10-17 17:15 | Comments(0)
2019年 10月 08日

一身(いっしん)-子の近代(8)

牡鹿半島・鮎川。
詩人の家・古い酒屋の店奥に座す吉増剛造の姿を見た時、ふっと
祖父の姿を想い出していた。
札幌都心部では市街地再開発法により都市の高層化が推進され、
こうした商店主が消え、多くの店はテナント・ショップと化した。
そして店の土地家屋は資産の持ち主=オーナーと名を変える。
生業(なりわい)の内にすくっと座す店主の姿が消える。
この時私の生まれた町内では明治生まれの老書店主が、私達地権者に
病床より<友軍三将に告ぐ>と記した書を送り、公的訴訟を提起した。
書店の奥の一段高い、店内を見わたす位置に座し、時に長く立ち読み
する子供たちに、本の埃を払うようにハタキを掻ける事もした。
子供心にもどこか畏れ敬う、その道専門に生きる人のオーラがあった。
幼少年期の身近な風景・空気。
生きる人の<身>の姿が甦った。

吉増剛造は1992年春客員教授として地球の裏側のブラジルに旅立った。
そこで明治以降蓄積され培養された日系移民社会に遺る純粋な日本の精神
風土と出会い、戦後育ちの詩人は多分そこに多大な衝撃を受け蟄居・自己
幽閉状態に陥った。(裸のメモー「木浦通信」・矢立出版より)
帰国後再生を志し、ブラジル行前年明治生まれのモダニスト・大野一雄の
舞った石狩河口に滞在し「石狩河口/坐ル」を実行する。
そして石狩川支流夕張川源流を遡上し名作「石狩シーツ」を著した。
2011年3・11以降「石狩河口/坐ル ふたたび」の試行を戦後
近代の根の再生として今に至るまで続けている。
今回北上川河口域に近い牡鹿半島先端鮎川に座し、自らの<身>の
坐ル→座ル・姿を<身>を以て曝し、近代/現代の(さかい)に<座>
していた気がする。
私が牡鹿半島先端・鮎川で見た吉増剛造の<身>の置き様とは、私の
記憶に遺るある時代までの店主の身の置き所に近い。

近代と現代の境目が、今音もなく静かに加速して顕れ始めている。
荒涼たる破壊の廃墟を生む原子力・バクダンは、安心・安全・便利の
原子力・ハツデンに変わる。
店主がオーナーになり、店がテナントになり、座るが腰カケルになり、
身(み)という言葉がボデーとなっていく。
即物的で身も蓋もない並列的で踵喪失の今が速度を上げている。
それが現代的というなら、今こそ近代そのものを問わねばならぬ。
吉増剛造の坐ル→座ルは、近代の原点から現代への静かな逆襲。
現代へのラデイカル(基底的な)界(さかい)への挑戦だと思える。

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by kakiten | 2019-10-08 16:54 | Comments(0)
2019年 10月 05日

牡鹿半島・鮎川への旅ー子の近代(7)

  。。。。。
 「さよなら、太陽も海も信ずるに足りない」
  Мよ、地下に眠るМよ、
  きみの胸の傷口は今でもまだ痛むのか。

鮎川信夫の「死んだ男」の最終章が、今度の旅のトニカのように
響いている。

木造の古い酒屋の家で、詩人の家を2ヵ月開いた吉増剛造。  
旅人を迎え、食事を共にし、一泊の宿を提供する。
生業の最前線に、詩人の店・主として座っていた。
3・11の深い傷跡遺る、牡鹿半島先端の地鮎川。
半島は樹木が緑深く海に挿す、海と空・光の半島。
先に着き仙台空港に迎えに来てくれたKA君とKI君。
彼らの運転するレンタカーに乗り、2時間程経て緑の傾斜
曲がり道の続く牡鹿半島を走る。
北の人間には珍しい森の植生。
鹿の親子も見る。
そして森が途絶え、海が見える。
新たに建造された防潮提の高い壁が海辺の視界を遮っている。
2ヵ月3.11の現場で詩の一生業主として滞在した吉増さんの
最終日の一夜。

二日滞在した牡鹿半島と石巻市。
半島には太陽と海と高い防潮提建造現場。
都市には津波で廃校の小学校とその前の墓石群。
大きな災害の後の<荒地>。
そして私には、戦後間もない昭和22年に発表された鮎川信夫の
「橋上の人」の一節が太陽と海の光と共に響いている。

 あなたは聞いた。
 氷と霜と蒸気と熱湯の地獄の呵責に
 厚くまくれた歯のない唇をひらき
 溺死人が声もなく天にむかって叫ぶのを・・・・
「今日も太陽が輝いているね
 電車が走っているね
 煙突が煙を吐いているね
 犬は犬のなかで眠っているね
 やがて星がきらめきはじめるね
 だけどみんな<生きよ>と言いはしなかったね」

一昨年の栃木県南那須・足利市・吉増剛造展。
昨年の沖縄・那覇・豊平ヨシオアトリエ。
今年の宮城県・石巻市・鮎川・詩人の家。
内陸の山を主体とする風土。
外陸の海を主体とする島・半島風土。
そうした宇宙・地球・自然に隣接する人間社会に触れて
日本の近代モダニズムが背負った負の近代を現代の事と
して、鮎川信夫の詩を通して深く感じた旅だった。
原子爆弾を頂点とする戦災と地震・津波・原発の災害とは
一見違うようだが、その本質は人間社会の在り様として変わ
らぬ構造的なものがあるような気がする。
私がこの濃い二日間で感じていた基調低音(トニカ)は、同
時代としての<荒地>だった。

 橋上の人よ、
 彼方の岸に灯がついた、
 幻の都市に灯がついた、
 運河の上にも灯がついた、
 おびただしい灯の窓が、高架線を走ってゆく。
 おびただしい灯の窓が。高く空をのぼってゆく。
 そのひとつひとつが輝いて、
 あなたの内にも、あなたの外にも灯がともり、
 死と生の予感におののく魂のように、
 そのひとつひとつが瞬いて、
 そのひとつひとつが消えかかる、
 橋上の人よ。

明治・大正・昭和近代77年ー戦後近代75年。
鮎川信夫の記した<近代の橋上>は今も変わらない。

 窓の風景は
 額縁のなかに嵌め込まれている
 ああ おれは雨と街路と夜が欲しい
 夜にならなければ
 この倦怠の街の全景を
 うまく抱擁することができないのだ
 西と東の二つの大戦のあいだに生まれて
 恋にも革命にも失敗し
 急転直下で堕落していったあの
 イデオロジストの顰め面を窓からつきだしてみる

「繋船ホテルの朝の歌」4連目のこの風景は、まるで1960年代
以降の岸上大作や奥浩平の安保闘争以降の風景のように今見える。

2011年三月十一日から8年を超えた被災地の風景は、私には
この鮎川信夫の詩の風景と変わらぬ風景を、見詰めていた気がする。

宮城県石巻牡鹿半島・鮎川は、戦後詩人鮎川信夫への旅でもあった・・・。

 テンポラリ―スペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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by kakiten | 2019-10-05 17:37 | Comments(0)