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テンポラリー通信

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2009年 03月 06日

還るー弥生・三月(5)

会場左壁に3点の作品がある。
真ん中には1月ここで製作した赤の「朱雀」。
左の作品は、氷の蓮のように結晶した花が濃い藍色の画面に浮いている。
右の作品は、明るい黄色をバックに綿を首に巻いた人物が右上半身こちらを向
いて立っている作品である。
画面右下奥に方形の小さな戸口のような空間があり、そこは濃い藍色である。
黄色の背景は上部で捲れて、背後は戸口と同じ濃い藍色だ。
この藍色は、正面に飾られた120号の大作に繋がって、氷結したオホーツクの
海にも見える青に連続していると思える。
この新作3点は、網走への帰還を前にした25歳の青年の、都会ー故郷へ
のひたむきな、還る心情を純粋に表現して止まない。
一度故郷を離れる事で初めて見えた、これから生きていく故郷への思念である。
サッポロという石狩平野の一都市。そしてニューヨークでの遊学。
それらを今胸に畳み込んで見える、故郷オホーツク。
そこで漁業に従事し生きていくのだ。胸に絵画への思いを抱き締め。
4月から11月漁師の厳しい生活が待っている。そして、流氷の冬、絵を描く。
そう心に決めている。不安はある。しかし傍には理解する伴侶がいる。
そこまで決めて発つのだ。今月14日結婚式もここでする。
オホーツクは帰るのではない。還るのだ。
還るは、螺旋状に深化し、高まり、芯化しようとしている。
それが作品に顕われている。リュックを背負って藍色の水平線を跨ぐ男。
前回沖縄へ旅立ったチQさんとのふたり展で製作された作品である。
モヨロ貝塚の原人のような奇怪な姿が、花束を鷲掴みにして暗い青の方形の窓
から、こちらにぬっと出てくる。これが始まりである。このあとリュックを背負った
人が背景の暗い青を水平線のように跨ぎ、顕われる。
そして都会の象徴と思われる横縞のTシャツを着た首・顔のズレタ人物が、手刀
を振り回し画面を切り裂いている。
裂け目の色は、オホーツクの崖の色と作者はいう。
その後朱色の大作「朱雀」が出来た。
この作品は、作者の心臓のようにも見える。赤く動悸し血脈が露(あらわ)になる
。そして新作120号の新作は、オホ-ツクの海に毛細血管でタッチしているか
のようだ。
ひとりの青年の心の軌跡を、生活上の変位とともに今、物語のように解釈する。
それが正当な美術批評かどうかは知らない。ただ私にはそのように思えるのだ。
生きる事の位相と表現する事の位相が激しく交錯し素直に顕われる。
その事を否定する如何なる理由も見当たらないからである。
夕刻沖縄に関する本を読み、少し疲れた目で「朱雀」を中心にした3点を見た。
ここはここの御獄(うたき)と思う。白い壁に朱と黄と藍の3点が美しかった。
還る前の静寂が熱く静謐に漂っていた。漲(みなぎ)る静寂である。
オホーツク、マイラブ。佐々木恒雄25歳の旅立ちの個展である。

*佐々木恒雄展「本日ノ庭」-3月3日(火)-15日(日)am11時ーpm7時
 月曜定休・14日(土)作家結婚式臨時休廊。
*小林由佳展「ソノサキニシルコト。」-3月17日(火)-27日(金)
*及川恒平ソロライブ「はざまの街にて」-3月29日(日)午後3時~
 入場料3000円・予約2500円

 テンポラリースペース札幌北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-03-06 12:18 | Comments(0)
2009年 03月 05日

散乱するー弥生・三月(4)

朝ゴミ捨て場にカラスがいる。喰い散らかされて散乱。
火曜日は燃えないゴミの日。月曜日は燃えるゴミの日。
水曜日なのに何故?と思いつつテンポラリーに入る。
昼前すみませ~んと声がする。隣と一軒隣の人だ。ゴミ袋を持っている。
お宅のゴミでしょうと言う。中に捨てた郵便物があり、宛名がそうである。
え~っ、あの朝の散乱していたゴミはうちのものという事だ。
月曜日は定休日なので、ゴミは日曜の夜帰路に出している。
今週は野上さん搬出・佐々木さん展示で月曜午後3時頃から出勤したので、
燃えないゴミはその日の帰りに出した。その際ゴミ袋が残っていた記憶がない。
何故忽然と日曜の夜のゴミ袋が、水曜日に出現したのか。
しかし、郵便物の残骸から紛れもなく私の所のゴミである。
なにか悪意のような物を感じて、嫌な気持ちになる。
とりあえず謝ったが釈然とはしない。これまでもあれっうちのゴミが残っているな
と思った事はある。月曜朝8時半までにゴミを出すのは休みで無理である。
前日夜7時過ぎに置いておく訳だが、次の日朝一番に出される方のどなたかが、
カラスのように分別しているのだろうか。不燃ゴミを入れている訳でもない。
何故うちのゴミだけが収集されないのか謎である。
ゴミはかって何処にも辻々に簡易なゴミ焼却炉があり、焼いていた。
学校のグランドの隅にもドラム缶のようなそれがあったと記憶する。
それらが石油製品の普及で姿を消し、車によるゴミ収集、埋め立て・焼却の方法に
変わった。一般人の手からゴミ処理は離れていったのである。
埋め立て式ゴミ廃棄という言葉、landfillという単語は1970年代から登場する。
その前の辞書にはない。プラステイック製品が主流を占め、石炭から石油への
エネルギー転換の時期と一致するのだ。
現在の都市化、利便性とこのゴミとは表裏一体の関係にある。
かって人の生活の基盤を支えた自然領域、源流や河口、森林といった場所に
そのlandfill(ゴミ埋め立て処理場)が在る。
都市の傲慢は、かってその都市を支えた周辺の野山、河川を汚濁しているのだ。
自然に還元され得ない大量のゴミは、海を埋め、野山を埋める。
あの美しい海の函、沖縄でも珊瑚礁を埋め立て希少生物を追いやっているのは
都市の飽くことなき、経済消費の欲望である。そして、その欲望は限りなくゴミを
生む。アメリカのロスアンゼルス・ハリウッドは同時にゴミの川でも有名である。
投げ捨ての消費の豊かな街は、同時に雨とともにゴミの川ともなる。
河口近くの豊かな湿原が危機に瀕しているという。
このアメリカ式の大量消費文明は、同時に深刻なゴミ処理の問題を孕んでいる
のだ。日本も同じである。物質主義のロマンは色褪せ、ただの物質主義となって
破綻した現在のアメリカ式文明はもう終焉を迎えているのだ。
豊かさへの憧れはそのロマンを喪失して、ゴミというツケを我々に回している。
landfill(ゴミ最終処理場)とは、landというアメリカの夢としてあったものの対極
にある同時代的現実でもある。
日常の朝の不愉快は同時に、コンテンポラリーな本質として近隣の人との心の
機微にまで及んでいる。

*佐々木恒雄展「本日ノ庭」-3月3日(火)-15日(日)am11時ーpm7時
 月曜定休・14日(土)臨時休廊。
*小林由佳展「ソノサキニシルコト。」-3月17日(火)-27日(金)
*及川恒平ソロライブ「はざまの街から」-3月29日(日)午後3時~
 入場料3000円・予約2500円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-03-05 12:12 | Comments(0)
2009年 03月 04日

送るー弥生・三月(3)

佐々木恒雄展初日。ふらりと夕刻人が集まる。
特段にオープニングを謳った訳ではない。
最初に酒井博史さんが来て、お祝いに表札を贈る。
佐々木恒雄・愛美と彫り込まれた檜の表札である。
網走の新居用だ。なによりのお祝い。
続いて中嶋幸治・エミさんが来る。野上裕之さんも見える。
秋葉原系のNちゃんも派手な服を着て来た。
佐々木さんの彼女の愛美さんは、風邪で来れないという。
残念である。舞踏をしている彼女の踊りを期待していたのだが。
真新しい表札をみんなで見て、野上さんと私が助さん格さんで、
佐々木さんを水戸黄門に仕立て、愛美さんが来たら、
この紋所ならぬこの表札が見えぬかとふざけようと冗談を言って笑った。
しばし飲んだ後、中嶋さんが飄々としかし真剣な口調で語る。
会社が突然倒産して職を失ったという。昨日の事だそうだ。
いずれ今の職を変える事を考えてはいたが、会社の方が先に無くなってしまった。
優れた美術家であり、青森からひとり一昨年札幌に来て良き彼女も得て、
これからという時である。その出立の時期がより早く来たともいえるのだ。
広島に本格的に定住し生きていこうとしている野上さん、網走で漁業に生きようと
している佐々木さん。それぞれの旅立つ時間が交錯して話は深まった。
「おくりびと」という映画がアカデミー賞を受賞して話題になっているが、なにも
送るのは生と死の間だけではない。それぞれの人生上の出立という”送り”もある
。純粋な個の表現軸を基底に、それぞれがそれぞれの困難に立ち向かい闘う時
がある。そんな困難を抱えた3人が集り、私は送りびとのようにいた。
佐々木さんの120号の大作の前で、みんながその青を語り合った。
氷結するような北の青。そして今年初めここで制作された「朱雀」の赤。
このふたつの大作は、心臓の赤と皮膚感覚の冷たい青のように思えた。
豊平ヨシオさんの南の青とは、やはり違うのである。
私はこのたった10日間あまりの間にふたつの青を廻っている。
そしてそこを通底するクラック、哀を想っている。
見えない川から辿ったさっぽろの山河、さっぽろの身体を透して沖縄にも触れて
いる。開拓基地と観光の構造は、沖縄の基地と観光の構造と凝縮して触れている
からだ。オホーツク、津軽、広島。まだ見ぬ国の友人たちとこうして共に飲みながら
それぞれの旅立つ動機の挾間の時を、送る自分がいる。
佐々木恒雄展初日。送る日である。

*佐々木恒雄展「本日ノ庭」-3月3日(火)-15日(日)am11時ーpm7時
 月曜定休・14日(土)作家結婚式臨時休廊。
*小林由佳写真展「ソノサキニシルコト」-3月17日(火)-27日(金)
*及川恒平ソロライブ「はざまの街にて」-3月29日(日)午後3時~
 入場料3000円・予約2500円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-03-04 12:34 | Comments(0)
2009年 03月 03日

恋するー弥生・三月(2)

<ここにはまるで別の天体であるかのような透明な空間のひろがりと、キラキラ
 した時間の流れがある。><水底のように透明で、すべてが不思議にやわ
 らかい。南国の自然は永劫にめぐみ深く人間を包んでいるようだ。-幸せな
 天地。しかし人間の生きる条件はこの自然とは別なメカニズムで、激しくつき
 動かされている。この丘も沖縄の歴史、悲劇の一つの頂点である>
そして<それは私にとって、一つの恋のようなものだつた>と、
岡本太郎は「忘れられた日本ー沖縄文化論」のあとがきに書いている。
かって読んだこの本を思い出しながら、実感として今脳裏を廻るのはこの<透明
な空間のひろがりと、キラキラした時間の流れ>そして、深い哀の感情である。
青い海に囲まれた翠(みどり)の函(はこ)。
その函(はこ)には、純粋に透明な何もない時空があって、
御獄(うたき)と呼ばれる神事の場そのもののように、島全体が
満ち溢れる空(から)の豊かさに満ちていたと思える。
人間の自然とは別なメカニズムさえ、風雨の災害と同じくその時々
函(はこ)を通り過ぎていく存在ではないのか。
そして人の身体もこの地球も、本来そうした美しい空(から)の函ではないのか。
蓋のない、満ち溢れ通り過ぎてゆく豊かな函(はこ)。
沖縄は島全体の存在がそのようにあると思うのだ。
<なんにもないということ、それが逆に厳粛な実体となって私をうちつづけるのだ>
初めてクボー御獄を訪れた岡本太郎はそう書いている。
清潔で透明な空・間。そこを通り過ぎる光・空気・色彩。青・蒼・藍・翠の海・空。
幅40mの高さ4mの壁いっぱいに、100余点展示されていた豊平ヨシオさんの
青の作品にひとすじ、ふたすじ切り込まれた縦の亀裂を、今また思うのだ。
100余の青い函のようにそれらが在ったことを。
<見るのではなく、ただ眺めるのです>。
あれは沖縄の島、海、空そのものに描かれた哀の行為である。

岡本太郎の言葉のように、今<恋する>ように沖縄の時間を思い出していた。
今日から佐々木恒雄展が始まった。
前回ここで描かれた4点に加えて新作3点と百号の大作が正面に展示される。
青の地に雪のような放射線状の白い結晶が拡がっている。
この青は冷たい青である。翠を含んだ南の青ではない。オホーツクの青と思う。
昨日の吹雪が路面に残り朝の光が白く反射して、画面の青と白を浮き立たせて
いる。南の青に恋していたかのような私に、この青が覚醒させてくれるような気が
する。北には北の青がある。
白い光、冷たく凝縮した青。キーンと身を固くした空気の肌触り。肌目。
ここにはここの函(はこ)がある。
そこを深く通底しながらなおその透明な静寂、哀の同時代性を思うのだ。

*佐々木恒雄展「本日ノ庭」-3月3日(火)-15日(日)am11時ーpm7時
 月曜定休・14日(土)臨時休廊(作家結婚式による)。
*小林由佳写真展「ソノサキニシルコト」-3月17日(火)-27日(金)
*及川恒平ライブ「はざまの街にて」-3月29日(日)午後3時~入場料3000円
 予約2500円

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-03-03 13:07 | Comments(0)
2009年 03月 01日

野上裕之展最終日ー弥生・三月

野上裕之展最終日。晴れた冬の陽射しが壁の鉛の作品に光る。
切れ切れの光の破片が、雪の反射と呼応している。
冬。さっぽろ。三月。白い乱反射。
あの南の島の豊かな色彩は何処にもない。
空の青、海の青にすっと亀裂を入れる事ができたら。
何年も前に沖縄を訪ねた友人に豊平さんが話していたという。
そのひとすじ、ふたすじの亀裂の哀しみを思っている。
その哀しみの深さに、北の私たちはどう応えるのか。
ただただ自己の生の深部において、見詰め受け入れようと思う事しかできない。
野上裕之さんのさっぽろ最後の仕事、
今その前にこうして立っていると、
北は北のそれぞれの哀(あい)があるのだと、心に思う。
冬の朝の光がそう告げていると思えた。
K大生のOくんこと、岡部健司さんからメールが入っていた。
哀の共有としかいえない友情である。
時間・世代・地域この境を超えて、間違いもなく弥生三月、
今日出会っている事実がある。
まだまだ言葉に置き換えることができない言葉が、
勝手に心の中を彷徨っている。
優れたふたりの仕事を前にして、花の香も漂わず、
雲も紫ならず、荒ぶる雪の弥生三月。
微かに疲労の昂ぶりの内に、言葉はない。

*野上裕之展「i」-3月1日(日)まで。
*佐々木恒雄展「本日ノ庭」-3月3日(火)-15日(日)
 14日(土)は作家結婚式で臨時休廊
*小林由佳展「ソノサキニシルコト」-3月17日(火)-22日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2009-03-01 14:46 | Comments(0)