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テンポラリー通信

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2008年 09月 19日

紙魚豆コレクシヨンー夏の末(sak-kes)(24)

新明史子展会場には、モビールと箱の作品の外に、豆本シリーズ4部作も並ん
でいる。2005年夏から夫君の岡部亮さんと共に制作したものである。
最初の制作の動機を新明さんは、次のように記している。

 大きな作品を作った昨年はとても疲れた。展示空間に合わせた作品は、大きさ
 が必要となるのはいっときだけで、発表後は生活のスケールからはみ出してし
 まう。・・今、この場所で生きている、身のまわりのことをいとしく感じながら生活
 している、それを素直に残そうと思い、半年かけて制作した。

第一部の豆本は4冊で構成されている。一冊目の「命名のうた」は、文を新明さ
んが書き、画を岡部亮さんが描いている。ふたりのなれ初めから所帯をもつまで
が2冊目の「ほれぼれとする」までに続いている。3冊目の「丘陵日」は、画・文と
も岡部亮さんのものである。自分の生まれた丘陵地帯を新鮮な地形として見詰
め、再発見していく作品である。

                1980
               
      Jレノンが亡くなった時
      彼のこともBeatlesの事も知らなかったが
      林はもっと木があって
      森だった気がする

と書かれて始まる画・文は淡々と20年の現在と過去を辿って進む。
生まれ育った見慣れたはずの世界が野幌台地であり、通学路が谷だったこと
、その地形の原風景を俯瞰する昆虫の目のように描き、描き進んでいく。
最終頁の幼少期通った小学校を俯瞰する視座は、正に鳥の目のように地形を鳥
瞰している。

      僕が覚えているのは
      秋の空を満たしてくれるとんぼたちが
      かなしいほどにすきとおった
      穴だらけの羽だったこと

表層の日常世界を記憶として記録しつつ、その視線は垂鉛のようにある深みへと
触れていく。ふたりのそれぞれの視座が記録されたこのシリーズは、今回の個展
でも、新明史子のもうひとつのかけがえのない日常から生まれた作品であるだろ
う。夫との共同作業を経て、それぞれの過去がある共感を保って確認されていく。
この豆本シリーズは、日常を日常として刻み、歩き深めるふたりの真摯な<みち
ゆき>の記録とも思える。

*新明史子展ー9月16日(火)-28日(日)am11時ーpm7時(月曜定休・休廊)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2008-09-19 16:23 | Comments(0)


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