今日は一日酒井博史さんの印鑑彫りの日である。この実演パフォーマンスは、
2年振りだ。この後藤谷康晴さん、村岸宏昭さんの個展が続く、熱い夏だった。
酒井さんはこの後唄の方の活躍が多かったが、本職は活字職人で印鑑を彫る
日章堂の店主である。
てん刻というと、聞きなれない人は、なんのこっちゃと思うかも知れないが、日本
の伝統的技術で、名前の後に朱色に押印される印を彫る技術である。
個人だけでなく、会社印や御璽御名の時にも捺印される赤い角印がそうだ。
過日、佐佐木方斎さん宅に、酒井さんが大木裕之さん達を連れて行った時、
佐佐木さんが、北海道立近代美術館の館長印の入った感謝状を見せてくれた
。ハンコ屋さんの酒井さんは、その朱色の大きな館長印の異常にすぐ気付いた。
我々は、目がそこまでは点検せずに、ただもう偉い人の飾りのようにその赤い印
を見過ごしてしまうのだが、彼はやはりプロである。崩して模様のような館長印の
前にある北海道立の<立>の字が、下の線一が無く<大>の字である事に気付
いたのだ。これでは、北海道<大>美術館になってしまう。
北大の付属美術館か、北海道の大美術館か、どちらにせよいい加減なものだ。
’80年代の感謝状なので、この印鑑が今も使われているかどうかは定かではな
いが、この大きな角印は、そうそう繁茂に使われているものでもないので、今も健
在で誰かへの表彰状や感謝状に、厳かに捺印されて手渡されているのかも知れ
ない。北海道の<大>美術館として、その権威に群がる文化ジンにはジンとくる
話である。この頂いた古いパソコンでは、もうてん刻の<てん>が漢字に転換す
る事もない位、死語に近づいている。活字という言葉、印刷という言葉も、実体は
死語になりつつある。押す、印するという行為が消えつつあるのだ。それは、異質
な物の接触が、その界(さかい)に新鮮な世界を開くという文化が消えつつあると
いう事でもある。鏨が石に字を彫り込む音が、響いている。活字も鉛の文字が紙に
刻印していくものである。その紙に触れる圧力の美しい加減が、印刷の美を生む。
撫でるような、スムースで速いサラサラの現代のコンピューターの文字とは違う。
印鑑もまた、コンピューター処理で簡単に出来るという。形だけの権威、誤字の
大きな朱色の角印は、きっと手で彫った物ではないのだろうと思える。
手仕事こそが、<近代美術>の最も大きな遺産の精華であるはずなのだが、そ
の精華を収蔵する美術館の長は天下りで、自らの手を使う事がない事の象徴とし
て、館長の捺印をなさっていたのでしょうかね。
*酒井博史てん刻ライブー7月20日(日)am11時ーpm7時。
*久野志乃展「物語の終わりに、」-7月22日(火)-8月3日(日)
*及川恒平ソロライブ「resonha vol 8」-8月5日(火)午後6時半~
入場料3000円・予約2500円
*アキタヒデキ展「点と点と展」-8月9日(土)-17日(日)
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り西向
tel/fax011-737-5503