初めて、村岸宏昭さんの家を訪ねる。作品集出版の資料をお借りする為、K舎の
編集者おふたりと、高校時代の友人H君とお訪ねした。お母様とお祖母様が迎え
てくれる。仏壇に手を合わせた後、色々なお話を伺い、2階の故人の部屋を見せ
て頂く。南西向きの角部屋で、暖かい陽射しがふり注ぐいいお部屋だった。
本棚を見ていると、故人の顔が浮かんだ。亡くなった年の春、一緒に行った古本
屋で彼が購入した埴谷雄高の「死霊」が目に入る。あの時はその後、蕎麦屋で一
杯飲んで楽しかった。私の事を”絶好調”と彼は後でブログに記している。
帰り際、小学生の時に作ったというマリオネットを、K舎のTさんが見つける。
グリーンと黄色、茶の色彩で出来た操り人形だ。小学生とは思えない仕上がりで
ある。大学受験時代に描いた暗い赤の膝小僧を抱きしめている絵と、どこか通底
したものがある。手足の長い明るい暖色系のこの人形がきっと、彼の原形にはあ
ると思えた。閉じた手足、色彩の濃い赤と黒ずむ青、黄昏か曙のような色彩。一
方、人形の開かれた手足、明るい優しい緑と黄土色。あれは、樹木の色だ。
この人形はお借りして撮影することになった。見つけたTさんの慧眼を思う。
上半身は描かれず、膝小僧を抱く細く長い手。全身を他者に向かって開いている
マリオネット。その形態と色彩の相違の間に、村岸さんの短いが濃い人生の振幅
が横たわっている気がした。同じく少年時代に造った空き缶を重ねた水音発生の
工作装置。これと同じ造りのものを、写真家のMさんが個展のとき、お祝いに進呈
したら、僕も小さい時同じ装置を作ったと、喜んでいたのを憶えている。
最後の個展の白樺の水音発生の仕掛けの原形がここにあり、その白樺を抱いて
来訪者が音を聞く行為は、このマリオネットの手足にあるように思う。
自らの膝のみを抱き閉じていた世界が、他者と同じ目的をもって白樺を抱くという
開かれた行為で成立する最後の個展。水の音に耳を澄ますという装置に、他者も
自分も樹を抱くという閉じつつ開かれる手足の行為。そこにもう一度彼のマリオネッ
トがあったのではないだろうか。水音と人形。このふたつの工作物は、村岸さんの
原形のようにシンプルに存在したのだ。
*岡和田直人展「好日」-5月21日(水)ー30日(金)am11時ーpm7時
月曜定休:18-20日休廊
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り西向
tel/fax011-737-5503