昨夕も仕事を終えた小林さんが来る頃、人が多く来る。人気の作家である。会い
に来るのだ。閉廊時を過ぎてもまた人が来て、流れは尽きない。電話が鳴る。
S君からで、今晩は故村岸宏昭さんの作品集刊行の集まりだが、どう?と言う。
今日というのを忘れていた。小雨の中、遅れて集まりに出る。原稿の遅れを、ま
ず聞かれた。申し開きをしながら、他の人の遅れも確認し、とりあえず胸をなで
おろした。村岸さんのお母様が、先日四国の鏡川を訪れた話をした。遭難時は
頭が真っ白で周りの様子も見ていなかったが、今回はあらためてゆっくり周りを
見て、渦巻くような深い淵のある川だという事を感じたと、話す。川に捧げた花が
ぐるぐる回って真っ直ぐに流れていかず、逆流したりしたという。深い淵のある
処なのだろう。山と海が近く急流で抉れている川。ふっと童謡の一節を思い出し
ていた。
-箱根の山は 天下の険、函谷関も物ならずー
この「函谷関」という”ハコ・タニ”を流れる川のイメージだったのである。
うっすらとこの歌詞を憶えていて、寺山修司編の「日本童謡詩集」を引っ張り出し
、確認した。深い淵のハコ状の地形のことを、オオバコ、コバコといい、函の字を
当てる事も多い。
suop(スおプ)-もと箱の義。川床の岩盤が箱のように深くなっている所。
両岸が絶壁で川底が岩の箱の形になって青く水をたたえている所。
(知里真志保「地名アイヌ語小辞典」)
この場合箱の字よりも、函の字の方が目にしっくりとする。
<川底が・・函の形になって青く水をたたえている所。>
川の流域が短くすぐ山から海に注ぐ事の多い四国の地形では、きっとこの函状
の川がこちらとは違って、身近に多いのだろうと思えた。
あらためて、愛する子供の命を呑みこんだ川の傍に立ちしみじみと見詰めていた
お母さんの話は、その一言一言に真実が溢れて心うたれるものがあった。
しかしもうひとつの、ギヤラリーという青い函から溢れた村岸さんの志は、今もこう
して集まりとして、もう2年近くも続いているのだ。年内に出版予定されている彼の
作品集の編集は遅々として、しかし確実に昨夜も積み重ねられたのである。
*小林麻美展「風景がわたしをみている気がする。」-15日まで。
*岡和田直人展ー5月21日(水)-30日(金)
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り西向
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