2008年 03月 20日
新しいヴィデオデッキで、久し振りに大野一雄「石狩の鼻曲がり」石狩河口公演 を見る。あの時の風、水、流木、光が甦る。大野先生が鮭になって土を掘り返し、 産床を造っている。川の中に置いてある赤いお膳を綱で引っ張る。足が土に食い 込む。昨夜までの台風の残り風が、衣装を揺らす。対岸の岸辺に沈みつつある 夕光が、半身を赤く輝かす。遠浅の川沖を慶人さんが走る。この自然の風と光、 土と水はすべて直接身体に触れてくるものだ。先生の長い舞踏歴でも初めてと いうこの自然のなかでの試みが、今あらためてその肌に触れる直接性として痛 いほど伝わってくる。あの時は観客のひとりとして岸辺の叢にいたのだが、こう して今見ると、観客としての臨場感のほかに演じている人間の行為に、その皮膚 の直接性を実感するのだ。水に入り、水を浴び、舞台にひとり夕光を受け、風が 頬を打つ。外界が身体に触れ身体を包む。川の水は海の勢いで上流へと波立つ 。鳥影が上空を疾走する。そのなかで体は、予想だにしない反応のなかにある。 その直接性が舞台と観客という誂えられた構造を取り払い、演者も観客も時に一 体となって河口の風と光の中にいる。舞踏する場は見られるだけの空間ではなく 、同時に自らもその自然と一体になり、夕陽を感じ、見入っている。刻々と変化す る光と影。風と川。その直接性が先生の内なるものを、さらに外へと導き出す。 この8年後にそれは、カムチャッカの羆の踊りとして封印されていた祖父・父の 海へと流れ出すのだ。陸軍大尉として激戦区ニューギニアでの戦闘経験。 国家が封印した舞踏への想い。憧れのアルヘンチーナ。傍で死んでいった戦友。 憧れの踊り、追悼の踊り、父なる時代に対峙する母への愛。そうした時代が強い た封印の奥に父・祖父がいる。その封印を石狩の豊かなゼロの境・界が解き放つ 。11年の歳月を経て纏められた石狩河口公演記録集「大野一雄 石狩の鼻曲が り」(2002年10月かりん舎刊・札幌)で、ご子息でもある大野慶人さんが座談会 で語っている。 ー<バケツに水いっぱい入れて頭に乗せ、歩くのではなくて移動させるのです。 ・・・それをずっと繰り返していると、ふっと取ったときも重さが肉体の中に存在して いるわけですよ。繰り返すことによって重さというものが内在化してくるのです。・・ ・染みるように触れて感じる。だから僕はああいうゆっくりとした踊りしか出来なくな りますね。>-石狩河口の水をバケツに満たし踊った時の慶人さんの談である。 ー<染みるようにして感じながら踊るのだと。だから早くはとても動けないのです。 >ー 水も風も光もそのようにあった。ここで慶人さんと大野先生の踊りの違いが問題 なのではない。石狩河口の豊かな空間・境・界は、染みるように触れて感じる直接 性に満ちていたということなのだと思う。そしてその直接性は身体に内在化し外界 と内界を繋ぎ、ゆっくりと動き出す。その放たれたものは、長い近代の封印を解き、 父の海へと大野一雄を触れさせたのだ。国家・社会が構造化する区別・差別・分断 の境・界と、自然が本来的に保つている境・界の<染みるように触れて感じる>境・ 界(さかい)の違いがそこにはある。 *境・界(さかい)としての石狩・大野一雄と吉増剛造ー3月18日(火)-30日(日 )am11時ーpm7時(月曜休廊) *及川恒平ソロコンサート「Re Song」-4月5日(土)午後6時~入場料3000円 予約2500円 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り西向 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2008-03-20 14:41
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