人気ブログランキング | 話題のタグを見る

テンポラリー通信

kakiten.exblog.jp
ブログトップ
2008年 02月 13日

小林由佳展ー視線と拠点(60)

小林由佳展が始まる。作者の生まれた江別駅前の町界隈を主とするモノクロー
ムの写真展である。彼女の父と母が出会い、7歳まで過ごした街。今もお祖母ち
ゃんがいると記されている。小林さんの写真の特色は、一度写した写真に薬品を
浸して、まるでシミだらけの非常に古びたものにもう一度加工している事である。
その結果現在の江別駅前の寂れた商店街、建物はさらに古色蒼然たる趣で写真
化され、展示されている。以前私も歩いた事のある風景が、色を無くし、さらなる遠
い大正か、昭和初期のようなセピア色のなかに佇んでいる。自転車に乗って通過
する人も、路上の水溜りも、切れ切れな色調の擦(かす)れのなかで、霞みのよう
である。過去と現在、その境を薄い皮膜のような科学的処理を写真に加える事で、
そのあわい(間)を、表現しているかのようだ。今朝の冷たく白い雪の日に、会場全
体の灰白い空気が、作品に映えている。今年節目の誕生日を迎えた作者が、「ス
ベテハココカラハジマル。」と題した個展への個人的な理由(わけ)を、この江別に
見る。古くは、<イ・プツ>とアイヌ語で入口を意味することばから生まれた江別
が、近代は石狩川に面する港として外輪船が走り、夕張鉄道の石炭輸送の拠点
駅としても繁栄していたが、近年は札幌郊外のベッドタウン化した大麻駅に人口
を吸収され、石炭の衰退とともに本来の江別は寂れる一方になっている。小林さ
んが父母、祖父母とともに重ねてきた時間の江別とは、まさにその近代そのもの
の江別なのだ。セピア色に皮膜のように表現された小林さんの個人的な家族の
江別が、今生活している札幌との距離において皮膚の感触のように表現された
時、まさに何かに触れ、何かが始まっている事を、この個展は予感させるのであ
る。その方向が、決してノスタルジックな郷愁の方向には向かわず札幌と江別の
界(さかい)に触れ続ける事で、今というコンテンポラリーな視点を軸心として創っ
ていくのを期待したいのだ。ここまで打ち込んでいると電話が来た。今仕事で来日
中のドイツのギヤラリスト佐藤ミキさんからだった。明日顔を出すという。今秋独立
して最初の企画谷口顕一郎展の打ち合わせも兼ねて来ると言う。久し振りなので
電話でも話が弾む。イタリア・ベネチアビエンナーレの話も出て盛り上がる。明日
が楽しみだ。ビリーホリデイーの「アイルビーシーイングユー」を流す。

*小林由佳展「スベテハココカラハジマル。」-17日(日)まで。am11時ーpm7
 時。
 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2008-02-13 13:05 | Comments(0)


<< 界(さかい)の再生      界(さかい)の思想ー視線と拠点... >>