菱川善夫先生の葬儀会場は多勢の人で埋まっていた。賀村順治さんの息子さん
の運転で午後6時半ぎりぎりに会場に着く。この日、寒気で路面が凍結し車が渋
滞して遅れる。会場には大きなスクリーンが設置され先生の生前の面影が何枚
も映っていた。懐かしい故人の風貌が流れている。やがて読経が始まる。東京下
谷の法昌寺住職でもある歌人の福島泰樹が登場した。葬儀の僧侶は彼だったの
だ。歌の復権を短歌絶叫のライブステージで熱く訴え続けてきた熱血の歌人であ
る。東京からこの日の為に駆けつけ自ら葬儀を僧侶として仕切っているのだ。菱
川家の宗派は福島泰樹の宗派とは違う筈と賀村さんが言う。熱血漢福島泰樹の
想いが多分宗派のしきたりを超えたのだろう。抜け目のない葬儀産業の段取りも
きっとこの男は打破しているに違いない。盛大なしかし段取り通りのこのセレモニ
ーをひとりの男の参加が大きくその商業的惰性を個のものへと革(あらた)める。
先生と福島泰樹の深い友情の為せる所である。何百人もの参列者のなか僧は福
島泰樹ひとりでその読経は深く心篭ったものであった。式後参列者を送る喪主の
和子さんの前は長蛇の列が続き私と賀村さんは挨拶を諦めて会場を出た。帰りは
地下鉄でとふたりで探す。途中空腹を覚えラーメン屋も探すが見当たらずぐるぐる
回ってまた会場の前に出た。中に入るとまだまだ人がいて知人に多く会う。地下鉄
の方向を確認してそちらに向かい蕎麦屋を見つけふたりで夕食にありついた。そし
て地下鉄に向かいホームで小樽の高橋秀明さん、石狩の大島龍たちと一緒になっ
た。我々を探していたと言う。大勢の人に紛れて何人かの友人たちがちらっと顔を
合わしては見当たらなくなり最後にまた地下鉄で会えたのも不思議だった。福島泰
樹や喪主の和子さんにも挨拶したかったと後で思う。賀村さんと葬儀会場を出てか
ら随分周囲を歩き廻っていたからだ。お通夜の後のあの漂流は何だったのだろう。
葬儀という縁取りは生を凝縮し革めて生に向き合わせてくれる。人の多寡に本質は
なく生と死の個に向き合うのだ。仏教の宗派がどうであれ、盛大な何百人もの参列
者が集ったとしても、福島泰樹のたったひとりの読経に象徴されたように先生の死
はそれぞれの個に収斂されていく。別れもまた出会いである。死という額縁は生を
濃くする。
*福井優子キャンドル展「Cold Fire」-23日(日)まで。am11時ーpm7時。
23日(日)午後7時~酒井博史ギター・唄ライブ入場料1000円
本日午後5時以降NHK綜合TV会場生中継放映予定。
*木村環×藤谷康晴「乱」-12月25日(火)-30日(日):木村環公開制作25-
29日:30日午後5時~藤谷康晴ライブドローイング・木村環の作品に直接ドロー
イングするライブです。
*森万喜子展ー1月9日(水)-20日(日)
*高臣大介ガラス展「雪と花光とGLA_GLA」-1月22日(火)-2月3日(日)
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り西向
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