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テンポラリー通信

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2007年 11月 22日

札幌・稚内ーサハリン・ヤクーツクー冬の輪舞曲(23)

谷口顕一郎さんの恋人彩さんが2年前のサハリン経由のロシアの旅を文章に書
きとめていた。その文章をプリントして昨日頂いたのだ。2年前にはドイツから写
真は沢山送って頂き、ツンドラ地帯のトナカイとの生活や日本人とそつくりなヤク
ーツクの人々との交流の様子を写真として見てはいたがこうしてあらためて文章
で日記として読むとまた写真とは違った陰影の深いものとなる。ドイツに谷口さん
ことケンちゃんが彩さんと移住すると聞いた時私はサハリン経由を強く薦めたの
だ。南廻りの通常のルートではなく北廻りのサハリン経由シベリアーヨーロッパ
のルートに北海道に住む人間として多いに興味があったからである。シルクロー
ドならぬマンモスルートとして北のかっての道を経てヨーロッパに至る事は日本
と欧州の近代のメジャーなルートと対峙する何かを感じていたからである。同じ
処に行ってもそのアクセスルートが違えば世界は違う。自らの感受性の開かれ
方が既成の手垢にまみれたものではなく新鮮に開かれる。国連事務総長をして
いた何代か前のフインランド人が来日すると必ず東郷神社をお参りするという話
を聞いていた。隣国の強国ロシアに何度か占領され戦ってきた国が同じロシアの
隣国である小さな国が日露戦争で勝利した事に尊敬を覚えていたからという。こ
の話を聞いた時あ~、そうか日本の隣の隣に北欧ーヨーロッパがあるんだと思っ
た。普段気付かない近しいヨーロッパがその時あったのだ。そして北大の探検部
が氷結した間宮海峡を徒歩で渡りロシアへ着いた話を新聞で読んだ。円い地球
の当り前の北経由のルートがその時見えたのだ。普段の情報に均されている南
周りのヨーロッパルートがその時消えた。そんな事もあってこれからドイツにアー
トの為に住いを変えるケンちゃんには北廻りを強く薦めたのだ。その所為もあって
か若いふたりは断固としてこの北廻りの旅を実践したのだ。そして今日記として
その間の記録が手元に届いている。-<去年の夏、私は恋人と旅に出た>-と
いう文章で始まるこの日記は女性ならではの細やかな感性で綴られている。明
治10年の頃通訳の日本人と馬だけで東北北海道を旅した英国女性イサベラバ
ードの妹への手紙の形を借りた旅日記をふっと想起させる。イルクークツでの近
代文明から遠くはなれたトナカイと暮す人々との交流を経て欧州へ辿り着くまで
の記録は決して南廻りでは体験できなかった出来事に満ちている。さっぽろ発で
稚内そして樺太を経て旅した果ての欧州が日本の近代の主流を為したヨーロッパ
を根底から見詰め直す経験として谷口顕一郎さんにも深い影響を及ぼしていくと
あらためて今思うのだ。ケンちゃんは立派な伴侶に恵まれたなあと思う。川とタイガ
を越えてトナカイの旅を続け山の頂きに着いた彩さんが書いている。広大で荒涼と
した自然を前にしてー<・・ふと思う。・・孤独というものは、心の内に果てしなく広が
っていくのではなく、心の外に、自分をすっぽりとくるむものとしてあった。・・アナト
リがおもむろに腕時計をはずし、放り投げる。それは松の根元に落ちた。・・この風
景を、シベリアに眠る時計を、いつか時の流れに押しつぶされそうになったとき、思
い出すことができればいいと思う。>-飛行機を乗り継ぐ旅ではなく恋人と共に歩
いたこの旅は時間軸が位相を変えてありその終着としてある欧州は明らかに現在
のヨーロッパへの旅とは違うものだった。その時間の中で確認するように込み上げ
てきたものを次のように記している。-<たった27年間の短い人生に起こるささい
な出来事に目を奪われ慌てふためいているうちに、自分の影を見失い、それを探そ
うともがき、ますます見失っていた自分はここにいた。・・いろいろなことがあって今
がありそれは自分だけの選択ではなく、知らない選択も紡ぎだされた糸のようにつ
ながって、これからもつながっていく。>-ツングースの人たちと踊りの輪にいなが
ら不意に胸に込み上げてきた想いを彼女はそう記している。大自然の前の時間と
類として人間に出会う時間というふうにふたつの時空を体験しながらこの旅はある
。心の外の孤独と心の内に込み上がる親和の糸の確認。そのように時間は訪れる
。外され放り投げた腕時計の保つ時間の後にもうひとつの時間の旅があったのだ


*いずみなおこ展「森の記憶」-25日(日)まで。am11時ーpm7時
*福井優子キヤンドル展「Cold Fire」-12月11日(火)-23日(日)
 :11日午後7時~あらひろこカンテレコンサート(フインランドの古楽器による)
  入場料1500円
 :16日午後3時半~佐藤歌織ピアノ・オカリナコンサート入場料1000円
 :23日午後7時~酒井博史ギターと唄ライブ入場料1000円
*木村環×藤谷康晴展ー12月25日(火)-30日(日)

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by kakiten | 2007-11-22 12:49 | Comments(0)


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