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テンポラリー通信

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2007年 11月 13日

さっぽろという美しい響きー冬の輪舞曲(15)

<札幌という名が大好きだ。初めは街がいいからだと思っていたのだが、このご
ろになって考えると、札幌という音の響きの美しさに魅せられたのも一つの原因
だったらしい。>(「アイヌ語地名を歩く」山田秀三)。この東京生れの篤実なアイ
ヌ語地名研究家山田秀三さんに生前一度だけ講演会でお眼にかかった事があ
る。見事な江戸っ子のべらんめえ口調でその切れの良い話し振りに魅了された
。東京弁は少しアクセントの違う標準語だが、江戸弁はアクセントではなく本当
に立て板に水といった流れるようなべらんめえ調なのだ。私も東京で学生生活
をしていたがこんな見事な江戸弁は一度も聞いた事がなかった。その真似をし
札幌弁の「・・・だべ」という語尾を意識的に切れ良く発音して「・・・だべさ」とか「・・
だべや」とかいう語尾の濁りと区別してみたりした。<・・だべ>と切れが良いのが
さっぽろのシテイボーイで<べさ>とか<べや>とか濁らないのが正当な札幌弁
だなどと言って友人たちのひんしゅくをかった。中にはわざと両手をひろげて<ダ
べソワ~ル>などとフランス語風の発音をして「・・だべさ」を正当化してみせる奴
もいた。とにかく山田秀三さんの正統江戸っ子のべらんめえ調は素晴らしくそうい
う正当な江戸言葉を発音できた人だからこそ北海道に残るアイヌ語の美しさにも
敏感だったのだろうと思われる。さっぽろの街としての美しさが損なわれつつある
今なおのこと<さっぽろという音の響きの美しさ>に思いが至るのだ。百有余年の
都市の短い歴史とその分圧倒的に近い縄文・自然の時間が隣接しているこの都市
が近現代の良さも悪さも凝縮して自然と併存している事のある意味では特殊な奇
跡のような環境を意識せず他の日本の多くの都市と同一に考える事自体が誤りな
のだ。近現代が他と比べて薄いのではなくエッセンスとしては濃いのである。そこに
19世紀後半まで世界で一番美しい島(水越武「世界一美しかった北海道」)と言わ
れた大地が隣接して広がっているのである。この近現代と自然の対峙がさっぽろ
の優れてコンテンポラリーな財産である。そこを忘却してただただ都市化の悪しき
近現代化に乗っかる事があたかも最先端であるかのごとき錯覚に陥っている札幌
エセ文化もまた存在する。山田さんの言う<さっぽろという音の響きの美しさ>に
今一度耳を澄ましてその向こうに広がる美しいさっぽろを見詰めなければならない
と思う。

*谷口顕一郎展「ペインテイングによる」-18日(日)まで。am11時ーpm7時
:酒井博史ライブ17日(土)午後7時~入場料1000円
*いずみなおこ展「森の記憶」-11月20日(火)-25日(火)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り西向
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2007-11-13 12:47 | Comments(2)
Commented by 筒井辰也 at 2007-11-13 22:42 x
お元気になられたようですね。九州の人間から見れば北海道の人は都会的に見えます。絵も洒落た感じの絵を画く同窓が多かったように
感じます。
Commented by kakiten at 2007-11-14 10:31
筒井さん>ご心配頂きありがとうございます。そうですね。都会的と
いうのは近代がスタートの北海道の都市の性格でしょうね。その分
近代以前のしがらみも少ない代わりに本州の各地域のエッセンス
は濃いのです。利尻や篠路に残る歌舞伎や獅子舞はそのエッセンス
です。そして圧倒的に取り巻く自然がすごい速度で破壊されながら
も対比的にふっと在るのですね。アイヌ語の地名もそうです。一度
来て下さいね。筒井さんの美しい磁器の透明な青が見たいです。


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