2007年 10月 27日
石田善彦追悼展も明日までとなる。死亡推定日昨年10月22日。発見は30日。 ほぼその知られざる死者の時間が今回の1年後の追悼展の会期と重なる。昨 年1月末まで25年続いた円山北町のスペースで知り合いその場からの退去、 現在の場所での新たな出発と共に汗を流してくれた。その石田さんの死にこの 間知り合った田中綾さん、山内慶さんが主となってこの追悼展を企画しこれに 賛同して多くの人たちが手弁当で協力して展覧会が実現したのだ。石田さんに 呼ばれたのかその2週間前に私も倒れそして会期の始まりと共に復帰する。死 の領域に近いところまで後退し見詰めたことばと手の暖かい回路がこの石田さ んを追悼する展覧会にも満ちているのだった。肉体はすでに消滅しているがそ の死者の生き方、志(こころざし)の方向に協力し賛同する友人たちの無言のこ とばと手はやはり暖かさに満ちている。’70年代の「新譜ジャーナル」に<今は まだ人生を語らずーである。ぼくはインスタント・コーヒーを飲みながら、レコード を聴いている。>とよしだ・たくろうを語る若き石田善彦がいる。またフォーク黄金 時代という雑誌でロックバンドの頭脳警察をレポートし若き井上陽水に取材する 石田善彦がいる。またリリイや浅川マキ、なぎらけんいちの新譜を批評する石田 善彦がいる。翻訳家として大成する前の音楽青年としての貴重な石田善彦も僅 かな期間に資料として収集する事ができたのだ。晩年の石田さんはその音楽青 年の時代へと限りなく回帰しようとしていたかに思える。その回帰の志した方向が 何なのかを解く答えはやはりこの音楽青年時代の文章に潜んでいるように思える 。ー<今はまだ人生を語らず>を何回か聴いてぼくが思ったのは、たくろうは”青 春”ということにあくまで固執することで、他のシンガーソングライターたちと決定的 にちがった一歩を踏み出したのだなという印象だった。今、手っとり早く青春といっ たけれども、青春の一種ナマ臭いエネルギーの正体は、まわりの風景の中をどこ までも猛スピードで駆け抜けようとする速度であり、自信なのだと思う。-冒頭の <ぼくはインスタントコーヒーを飲みながら、レコードを聴いていた>で始まるよし だ・たくろうの「今はまだ人生を語らず」評に私は石田さんの回帰する青春の原点 を感じるのである。<自分のまわりで渦巻き、押しよせてくる洪水のような人間た ちの関係やモノの間をもの凄いスピードで泳いでゆく。-ぼくはやっぱりここにあ るのは、かって自分にもあった<青春>としかいえないものなのだと思った。「今 はまだ人生を語らない」というのは、裏返しにはなっているけれど青春に執着しよ うとする姿勢に違いはない。-とたくろうの歌を語りながら青春というエネルギー の保つ速度と自信の執着を語る石田さんに私は晩年の石田さんが再び押しよせ る社会の人間とモノの関係性のなかで夢のように回帰しようと望んでいたものが あるのではないかと推測する。私は私の場の奔流のような変遷を生きながらきっ と彼のそうした自信とスピードへの自らの復活への願いに冷淡だったように思う。 私は私の事で視界が狭く彼の心に添う友人の視線に不充分だった気が今はする。 石田さんの晩年の心の苦境に”青春”という名の自信をともに分かち合う時間を同 世代の友人としてかつ同時代の志(こころざし)を保つ者として欠落した事を今は 悔いるのである。死の2週間前まで石田さんが熱く友人に語っていたある音楽青年 がいる。それは彼に先立つ事2ヶ月前に遭難死した22歳の村岸宏昭さんである。 <青春>の真っ只中で死んだこの青年にその時石田善彦は何を見ていたのだろ うか。ーいわゆる<フォーク>のすぐれたところと深いところでつながっているのだ が、自分の生き方の方向と信じるものをピタリと歌うことと重ね合わせることができ るという自信だったといえるのだ。-石田さん、そこだったんですね。あなたにとっ て青春とは。自分の生き方と信じるものの方向性の一致。それは青春に回帰する ことではなく今、只今の内にこそあるはずなのにと私は思うのです。そんな話を出 来なかった悔いが今は残るのである。 *石田善彦追悼展ー28日(日)まで。am11時ーpm7時 *谷口顕一郎展ー11月3日(土)-18日(日) *いずみなおこ展ー11月20日(火)-25日(日) テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り入り口 tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2007-10-27 11:18
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