人気ブログランキング | 話題のタグを見る

テンポラリー通信

kakiten.exblog.jp
ブログトップ
2007年 09月 24日

♪愛されて~ふくぅ~おかー秋の遁走曲(7)

阿部守展最終日のほんとに最後の時間書肆吉成の吉成秀夫さんが来る。その
彼が今日のブログに書いている。<阿部守展とても良かった。鉄の初めて見る
表情だった。>-初めて見る。そうだ、我々はスーパーの野菜をあるいは切り身
の魚しか知らない子供たちと同じなのかも知れない。加工されたものしか見てい
ない。鉄もまた鉄筋や鉄枠、鉄路、鉄格子、鉄板。火で溶け流れる製鉄所の光景
は滅多に見る事もなくまして町から鍛冶屋さんが消えた現在ますます鉄と火と水
の光景を見る事はない。大地の元素としてある金属のもとの姿を知らない。そして
その素材が精錬されていく過程も知らない。切り身の魚のように加工された結果
だけを享受している。それは便利なお手軽さに満ちているが一面不幸な事でもあ
る。プロセスを知らないから勿体無いという感覚がなくポイッと捨てる。結果優先の
文明病である。捨てられ古くなっていく事にもプロセスが在る。鉄の場合は錆であ
る。魚や野菜の場合は腐敗である。この負のプロセスにも有効性や美をみる精神
がかっては在ったと思う。近年有機農法と呼ばれたり庭園の苔を見詰める目線で
ある。近代の産業遺構物にある美しさをみる視線もそうだ。レトロという滅びの錆
の文化である。人はなぜそうした物にも惹かれるのか。そこに命をみるからである。
命の蓄積を見るからだ。阿部守は鉄を素材に火と水と人の手の痕跡を、燃え、冷
え、叩く行為の痕跡として溶ける、固まる、凹む表情を鉄そのものに留めた。初め
て見る鉄の表情とは鉄の精錬過程と錆びていく鉄の復元過程の両方の命の過程
なのだ。用という結果以前以降のものの姿なのだ。私たちは多分その事を本能的
に知っている。川の流れを見ていて見飽きないように海の波を見ていて見飽きない
ように過程の保つ美しさを知っているのだ。その物の過程を感受する機会が都市
生活から喪われつつある時にこそ文化の保つプリミテイブな力を発掘しなければ
ならない。彫刻の本来保つ力もまたそうした力である。阿部守の今回の作品は素
直に凛としてそのように在ったと思う。-初めて見る鉄の表情ーとはその謂いだと
思う。吉成さんがゆったりと見て”こりゃはまっちまうなあ”と呟いて福岡への荷造
りも手伝ってくれ帰る頃藻岩山山麓のOさんから電話が来る。さっぽろに置いてお
く話どうなりました?待ってます。これが阿部守展最終日の、本当に本当の最後
のメッセージでした。愛されてよかったね、阿部さん?

*中嶋幸治展「Dam of wind、for the return」-25日(火)-30日(日)
*毛利史長・河合利昭展「産土不一致 sand which!?」-10月2日(火)
 -12日(金)
*柏倉一統展「アンタイトルー001」-10月16日(火)-21日(日)
*石田善彦追悼展ー23日(火)-28日(日)
*谷口顕一郎展ー11月3日(土)-18日(日)
*いずみなおこ展ー11月20日(火)-25日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2007-09-24 15:35 | Comments(0)


<< 中嶋幸治展始まるー秋の遁走曲(8)      阿部守展最終日ー秋の遁走曲(6) >>