大人4人がかりで福岡から届いた作品を会場に置く。梱包を解きつつ作品の一部
が見える。緊張が解ける。何とも言えぬ柔らかな肌である。これが鉄?厚さ6ミリ
の鉄とは思えない。全体が姿を現し立てる。横幅90cm奥行き30cm高さ1m20
cmの鉄の立体造形である。色は茶褐色の鉄錆。正面から見ると不定形な凸凹
が樹肌のようにも陶器のようにも見えるほど柔らかい。背後に回ると垂直な直線
の壁である。その対比は極端に違う。床の木肌としっくりと調和して以前からそこ
にあったかのように存在している。もう何もいらないねと阿部さんとふたり納得す
る。壁に石狩河口のドローイングとか考えていたようだがもう何もいらない。この
大作の鉄の肌にすべてがある。河口の茶色く濁った濁流、河岸の砂の風痕。具
象的なものは何もなくともここにはそれが篭っている。しばらくは言葉もなく見詰
めていた。そうこうしていると小荷物が届いた。佐佐木方斎さんからで新しく出版
した「阿閉正美詩集」と「桜庭洋一歌集」各50冊であった。宿願だった故人の友人
の詩集と病院で知り合った櫻庭さんの歌集を一気に自費で出版した佐佐木さん
の熱意が伝わる本である。費用は自作品を売却して作ったと言う。阿部さんの北
海道との縁は1980年代の佐佐木方斎企画の現代作家展から始まったものであ
る。20年ぶりに佐佐木さんに会いに行こうという事で会場の展示も終えて急遽佐
佐木宅に向かう。急な訪問にも拘わらず阿部さんとふたりの話が弾んだ。私は何
かほっとして疲れがどっと出てしばらく横になって眠った。帰りに佐佐木さんも一
緒にギヤラリーへ連れて行く。着くと陶芸の下沢敏也さんと美術家の柿崎熈さん
がいた。たまたま前を通りかかり作品の存在感に惹かれ待っていたと言う。方斎さ
んも含めてしばし歓談する。その後柿崎さん、佐佐木さんが帰った後下沢さんの
誘いで平岸の彼の工房に向かう。プレオープニングで工房近くの居酒屋でご馳走
になる。ここでもふたりの話はある共通点も含めて盛り上がる。私は疲れと酔いで
ここでもしばし眠った。鉄という素材がこんなにも柔らかく表情豊かであることが、
きっと快い安らぎを与えてくれていたのかもしれなかった。
*阿部守展ー9月11日(火)-23日(日)am11時ーpm7時
*中嶋幸治展「Dam of wind、for the return」-25日(火)-30日(日)
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り入り口
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