2007年 07月 29日
最初は2階の吹き抜けの梁に蹲りやがて徐々に動き出した。昨夜の栄田佳子 さんのパフォーマンスである。下では福井岳郎さんが小さく音を叩いている。や がて梁を駆け回る栄田さんの動きが段々と激しくなりそれとともに音もまた大き くなってきた。私は昨年この家をみんなで改造していた時の石膏ボードと土壁の 間に挟まれて死んでいた大きな白い鼠を思い出していた。福鼠、大黒鼠という名 で呼ばれるあの七福神の大黒様の担ぐ大きな袋に乗っている鼠である。その鼠 のように栄田さんが梁を走り回る。樫見菜々子さんの展示の時使われた白い梯 子を伝ってやがて栄田さんが下に降りてきた。会場に立てかけられた作品を手 にとり自由に動かし踊りながら移動する。作品の位置構成が栄田さんの動きとと もにどんどん変化していく。このパフォーマンスとともに岳郎さんの楽器は次々と 変りケーナ、太鼓と数種類の楽器が繰り出される。踊りのような動きは益々激しさ を増しとうとう作品の縁を音に合わせて叩き出した。白い鼠はもういつかしら優雅 な弁天さまのようになって手と足の動きが軽やかに速度を増している。1時間近く も踊ったろうか。作品は床にバラバラに散乱し磨かれた銅版の鏡のように光った 1枚だけが元の位置に在った。銅版画というかちっとした硬い質感と腐蝕による 版の上での侵食がさらにこのパフォーマンスによって秩序の破壊と混乱の修羅 場のように会場に放り出されたのだ。生身の人間の行為が舞踏という形で。ある 優雅さのうちに秩序と反対の渦中へと導き、ワイルドゾーンが出現する。弁天さ まのような優雅な動きが実は会場のこの2週間かけて醸成してきたある秩序のよ うな固まりを破壊し、混乱と無秩序を創りだしたのである。これはもう優れて女性 にしかできない行為である。この時点で楽器を演奏する岳郎さんもひたすら栄田 さんの動きを撮影していた石川さんも七福神のひとりとなって会場はその船のよ うになっていた。私はあの白い大きな福鼠、大黒鼠が活き活きと再生し再びかっ ての土壁の間を走り回っているような幻想に陥っていた。新建材や石膏ボードと いう近代の毒に立ち竦み悶絶死したであろうかっての家の主の復活、再生の時 間が彼女の踊りにはあったように思える。そしてまた石川亨信さんのある破壊へ の願望、ひとつの殻からの脱却がそのまま栄田さんの行為によって実現されたか に思えるのだ。<卵の中の格闘>はここでもまた形を変えてあった。今週嵯峨、 酒井、栄田と3っのSによる作品と音、行為のコラボレーシヨンによって石川さんの 潜在的なある破壊、その否定的媒介の願いは最後に優れて女性であることのワイ ルドな行為によって完遂されたかに見える。石川亨信という作家がこの会場を選び ここで展示する行為の内に密かに時限爆弾のように仕掛けていたのはこの破壊し 再生するという願望ではなかったろうか。展示自体のインスタレーシヨン性にもそ の意思が読み取れるのである。陽光の燦々と入光する時間への拘り。壁に初めか ら固定しない床に直に置く展示形態。それらはすべて場の可変性に賭ける作家の 想いの顕われであったろう。場に不確定な要素を多く設定しその偶然の可変性に 作品を委ねる。その願いは最後に白い鼠の弁天さまによって完遂されたのだった 。 *石川亨信展「each pulse,each tempo」-29日まで。 *村岸宏昭の記録展「木は水を運んでいる」-8月7日(火)-12日(日) :1~6日会場展示準備で休廊。 併催:遺作コンサート10日(金)午後6時~於ザ・ルーテルホール(大通り西6) 追悼ライブ6日(月)午後7時~於ライブハウス[LOG」(北14西3):7日(火)午 後7時~於カフエエスキス(北1西23)
by kakiten
| 2007-07-29 12:01
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