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テンポラリー通信

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2007年 06月 16日

青い空ー夏の旗(10)

2か月ほど前に青森から来た中嶋幸治さんが個展の予約に来た。なぜさっぽろを
選んだのかここにきて分かったという。だからそれを作品で表現したい。冬の終わ
りから春、夏の今、日々風が違うと言う。来た頃はオレンジ色の風、最近は粒子の
荒い風を感じると言う。津軽海峡ーブラキストンライン。植生だけでなく風も違った
か。個展のタイトルは「Dam of wind for the return」。自分の産まれた場所
のRepublic。その思いがタイトルに表れている。同じ青空を見、同じ風を感じても
青森とさっぽろでは違う。当り前のようで当り前でない真実。そのふたつの深さを
思う。離れて解ることもある。青森を離れて青森を見る。生まれた町の白い土その
土を持ってきて作品を作ると言う。知らない未知の青森が匂う。秋、夏の終わりに
中嶋さんは九州の阿部守さんと東京の石田尚志さんに続いていいさっぽろの風を
我々に運んでくれるに違いない。北へ気圧の谷が深まるのだ。同じものを見ても同
じではない。その個別の谷間の深みを人は生きる。時にそれは残酷な事だ。でもそ
の深みがあって人は人とも出会うのだろう。そして別れもある。中嶋さんもひとつの
選択をした。それは同時にある出会いでもあるが、ある別れでもある。それが時に
究極のかたちになる事もある。まるで否定のように。決してそれが主体ではないの
だ。選択した事が主役なのだ。父を捨て母を捨て町を捨てたのが主役ではない。
それは副次的なことなのだ。眼はその先にある。そこを耐え眼を逸らさない事。真
っ直ぐに眼の先の選択した事象に生きる事、そう思う。<for the return>。そう
して捨てたものに再び出会う。留まって出会うのではない。真っ直ぐに先を生きる
から出会うのだ。父も母も町も友人も恋人も己自身もそうして別れきっとそうして
また何処かで出会う。私にとって私のさっぽろがそうであったように。死者を送った
翌日個展の申し込みに来てくれた中嶋さんに感謝と友情を感じている自分がいた
。夏の果て、新たな冬の年の始まりにさっぽろの美しい短い秋の風が光るだろう。
昨日村岸宏昭さんの追悼展のポスターとDMが届いた。村岸さんの高校時代の
親友原隆太さんが村岸さんの演奏をCDに収録して届けてくれる。そして愛読して
いた「風の谷のナウシカ」全巻と好きだった梶井基次郎の短編「薬ー断片」のコピ
ーを持参してくれた。人の脳味噌の黒焼きを薬として貰い母に勧められたという
15行程の短い短編である。選択の残酷さが凝縮したような短編である。母は病気
の息子の為にそれを人から貰い迷いながらも勧めるのだ。息子でなければその薬
は選択されないだろう。でもその薬は人の脳味噌の黒焼きなのだ。愛と選択と残酷
さが私にはこのたった15行の作品に色濃く漂っているのを感じていた。母が見て
いる眼の先は息子の病だけである。薬の残酷さはその一点において副次的な事
となる。原隆太さんは村岸さんの本当の友人だったと思う。心を晒し何でも打ち明
けていたんだなあ。昨夜予定の追悼展月例会は一時延期となる。お母さんの村岸
玲子さんから連絡があった。私に気を使ってくれたのでなければいいのだが・・。

*屋比久純子・藤原典子展「LALALAガラス展」-6月19日(火)-29日(金)
 gla_glaスタッフ女性2人の展覧会。
*後藤和子展「青焔sei-en」-7月3日(火)-15日(日)
*石川亨信展「each pulse、each tempo」-7月17日(火)-29日(日)
*村岸宏昭の記録展「木は水を運んでいる」-8月7日(火)-12日(日)
 ー遺作コンサート8月10日(金)pm6時~ザ・ルーテルホール(中央区大通り
   西6丁目)
 -追悼ライブ8月6日(月)pm7時~ライブハウス「LOG」(北区北14西3)

 テンポラリースペース・札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り
 tel/fax011-737-5503 AM11時ーPM7時

by kakiten | 2007-06-16 12:24 | Comments(2)
Commented by jnakajima2 at 2007-06-17 19:57
こんにちは。ここを読むのがとても楽しみになっています。思えば着きたての頃、札幌をなんとか理解しようと街中を走り回って結局目が廻ってしまって、行き着いたのがTEMPORARY。本来の目的はご承知の通り別のエリアでしたが、腰を据えているのは別の磁場です。タイトルは日本語表記にしたかったのですが、日本語が難しくて英字に逃げました。いや、自分の想いを母国語に表すことが難しくて幼稚で上手くないためかもしれませんね。個展は初です。数年悩んだ挙句にようやく「個展」の意義を見つけたのかもしれません。僕はテンポラリーからreturnします。できます。(幸治の「治」はREだったりします?)
 村岸宏昭さんのことはまだ全く分かりません。これから知ることになりますね。僕の中で彼は今始まったばかりなんですね。また伺います。-先日は、不謹慎かもしれませんが楽しかったです。初秋よろしくお願い致します、中嶋幸治。(北方への移転、選択の余地なく、切符買ってました。)
Commented by kakiten at 2007-06-18 09:31
jnakajimazさん>個展の意義、風のダム、for the retun。いいすね。
また会いましょう!


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