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テンポラリー通信

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2007年 06月 01日

視線と拠点ー樫見菜々子展(3)

窓が空を映して青く光っている。窓辺に白い30cmほどの鳥が外を向いて止まっ
ている。その2mほど後ろの北側吹き抜け空間に白い鳥の倍以上もある黒い鳥
が同じく窓の空を見据えて止まっている。これには小さな送風機が見えない所
に設置されて羽毛が微かに波打っている。また階下の白い梯子を昇り首だけ梁
の間から出すと蹲って寛いだ姿の窓辺の鳥と同じ大きさの黒い鳥を見る事がで
きる。この梯子を昇り首を出した地点でしかこの3羽の鳥たちを同時に見る事は
出来ない。階下の会場は入口部分が頭を入れる幅位に開かれたカーテンで仕
切られ微かに香りが立ち込めている。床には所々白い布の木蓮の花びらに似た
ものが点在している。真っ白な空間に窓から注ぐ光が刻々と変化を与えそこに立
つていると眼は自然と吹き抜け上部の窓の空へと向かう。鳥たちと同じ視線にな
るのだ。羽のなびく大きな黒い鳥が白い空間から窓に向かって飛び立とうとして
いる姿勢に視線が集約されてその視線が会場の主調低音のようにあるのだ。
窓辺の白い鳥と大きな黒い鳥のふたつの存在がその色の対比によって緊張感と
ある捩れのような溜めを空間にもたらしている。時々の空の色。黒い大きな鳥、窓
に添う白い小さめの鳥。階下からは見えないもう一羽の黒い鳥。作家は自らの視
線の内側の構造を鳥と窓の配置によって表現している。圧倒的に多い白とその白
を纏ったような同じ白の鳥。唯一動的な大きな黒い鳥。このとき白は整合性を纏っ
た社会、世間ともとれ黒は内面の対峙する意志とも解釈できる。また純白な室内
と小さな白い鳥は内面の純粋理念を表し黒い大きな鳥と寛いだ陰の黒い鳥は不
安と怠惰の現実の表象ともとれる。外界に臨む内面のあるがままの荒野、ワイル
ドサイドそのものの風景ともいえるだろう。そのあるがままの内面の世界を表現す
る事で視線は拠点を構築していく。内と外の境を空間として存在させ、その境から
内と外を同時に俯瞰した時その<境>は深呼吸するようにもうひとつの<界>を
保つたのだ。視線の拠点そのものの構造が深化していく。窓は外界の入り口であ
り純白な室内は外界に対応する内なる境のようにあって白い小さな鳥は外界に備
え臨んでいるかに見える。しかしその背後には黒く波打つ羽をもった今にも飛び立
とうとする大きな鳥が内面の強い意志のように、あるいは大きな不安のように迫っ
てくる。この外界と拮抗する内面の白と黒の対比で強調される屈折、捩れこそが
視線の保つ現実構造なのだ。鳥たちの視線の先に何があるのか。その事は今問
題ではない。外界を見詰めている自分がいる今その事が大切なのだ。内と外の界
(さかい)に立って理念と現実の狭間の移ろい易い自分。視線の拠点は今そこにし
かない。カーテンが風で揺れている。光が刻々と変化する。その揺れる空間のな
かで鳥たちの視線だけは不動である。あたかもその視線の定着の為にこの空間は
創られたかのようだ。香り、光、風その移ろうものを抱く空間でこの鳥の保つ視線は
そのまま作家のひたむきな出発(たびだち)を純粋形象して在るのだ。


*樫見菜々子展「微風」-6月3日(日)まで。am11時ーpm7時
*有本ゆかり展「ヤシンカの森ーインドからの風」-6月5日(火)-10日(日)
*gla_gla2人展ー6月19日(火)-29日(金)
 於テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2007-06-01 11:50 | Comments(0)


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