ギヤラリー出勤前藤谷さんの最終日会場に寄る。さらに作品が増えている。迫力
増す。ドラゴンがのたうち、鱗が波打つようだ。さらに布が東側窓下に敷かれて描
きこんである。紙が足りなくなり白い布を追加したのだろう。初日と比べ会場は厚
みを増している。南側壁の作品にリズムが出て一体感が出ている。あの精密で静
謐な都市の光景はもうどこにもない。内なる命の暴力的なうめきのままのたうつよ
うに増殖している。都市を凝視する押さえ込んだ対峙する視線が一気に開いてそ
の情念のまま溢れていた。もう酒鬼薔薇少年の透明な狂気は篭る事はない。藤谷
さんのこれは美術による再生なのだ。この後彼が何処へ行くのか、その事もあま
り問題ではない。藤谷さんは自らを救ったのだ。絵を描くことで解放したのだ。一
種の殺意を解消したのだ。
斎藤周さんの個展も今日が最終日。作家も朝から来て訪れる人が絶えない。東
京の今城恵子さんが来る。仕事で札幌に昨日着いたと言う。今水戸芸術館で開
催されている「マイクロポップ」展を引用しながら斎藤さんの作品も一種のマイク
ロポップだと言う。ごく身近な人たちのトレースされた輪郭の群像。それらが淡い
中間色の色と共に溢れて会場を漂っている。正面きって人物を描いているわけ
ではない。後姿や横向きのデッサンの暖かい距離をもって描かれているだけだ。
身近で冷たくない距離。濃い距離ではない。淡いしかし温かい距離。マイクロポ
ップ。成る程と思った。藤谷さんの遮断する凝視の距離感。それが溶けて一気に
マグマのように溢れた表現とは対照的な距離感ではある。このスナック菓子のよ
うな淡さ、軽さこれもまた現代である。斎藤さんの生徒たちが次々と訪れる。2階
の吹き抜けに上がり思い思いに座ってお喋りをしている。上と下に若い声が溢れ
る。鳥小屋のようだ。ああ、この距離感だなと思う。あらためて斎藤さんの教師と
いう職業を思った。そう思うともう会場は作品と現実が一体化して今日の温暖な気
温とともに午後の陽射しの中に陽炎のように揺れていた。
*斎藤周展「3月の次から」25日まで。
*福井優子作品展「春を灯すキヤンドル」-3月27日(火)-4月1日(日)
am11時ーpm7時月曜休廊於札幌市北区北16条西5丁目1-8
tel/fax011-737-5503