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テンポラリー通信

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2007年 03月 16日

地下鉄のなかー春のにおい(28)

地下鉄に乗るといつも思う。目的の駅まで途中が捨象される。つり革にぶら下れ
ば窓ガラスの外の走り去る暗闇。座れば固く目を閉じた人、化粧する女、耳にあ
てたイヤーホンで音楽を聞く若者、携帯のチェックに余念のない人。そして細かな
車内アナウンス。目的の駅まで時間を捨象する事にみんな集中している。乗り継
ぎのさっぽろ駅大通り駅では降りた途端多くの人が走り出す。遅れる事遅い事が
あたかも罪のように。早く、スピードに遅れることは社会から落ちこぼれることなの
だと言わんばかりに男も女も老も若も走る。途中は無駄なのだ、この無駄を早く取
り戻さなければならない。そんな脅迫観念に囚われているようだ。より速くより効率
的に無駄なく。だから地下鉄に乗っている間は周囲を無視する、凡て周りを無視し
て降りたらその無駄を帳消しにするように早く時間を取り戻すのだ。深夜近くの酔
っ払い以外は時間が停止している。<私>だけの閉じた時間に閉鎖している。同
じ距離を地上で歩いていると<私>の時間は周囲と触れて風景と会話する。足は
地面に触れ耳は音を聞く。目は勿論活発に動き口と鼻は呼吸に忙しい。時間が体
とともに動いている。地下鉄は身体を預けているから身体は化石のように不動を
装う。地下鉄の速度に負けずに降りたらそのスピードを都市のスピード都市の価
値として纏い続けなければ都市に負けるのだ。遅い事は脱落。敗残者。だからせ
はしなく歩く、走る、周りは消える。目的地へ。でそこに何がある?会社、家庭。
朝と夜。カッカ、カッカと音を立てて女のハイヒール、男の黒靴が地下鉄の駅の
階段を走る。機械の速度で遮断した時間を取り戻さなければより早くより高くの価
値観に置いていかれるのだ。先頭を切っている第一線。これが生活なのだ。そう
言わんばかりの後姿を見ながら地下鉄は疲れるよなあと今日も思った。

*斎藤周展「3月の次から」3月13日(火)-25日(日)am11時ーpm7時
 月曜休廊於テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8
 北大斜め通り
*斎藤周ライブドローイング3月17日(土)終日予定

by kakiten | 2007-03-16 12:21 | Comments(0)


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