風もなく綿のように湿り気のある雪が降る。雪が重い。ふわっと雪はねができない
。少し腰を入れてよいしょっとである。これで冷え込むとツルツルのステンだ。でも
樹が綺麗だ。湿った雪が枝にくっ付いて自然の白い造形になる。森に行きたいな
あ、カンジキか山スキーを履いて。樹はそれぞれに生き方そのものの形をしてい
る。同じものはない。種類が同じでも形は同じではない。その場の生き様、生き方
そのものが形になっている。それでいて周りと調和している。充分に自分でありエ
ゴではない。人間もこんなふうに生きていけるのだろうか。そういう形をとれるのだ
ろうか。森の調和のように。冬の森、雪の森。裸木の幹と枝。そして雪。ここには
神の世界があるようだ。当り前のように神がいる。理念でも、遠い世界天上の国
でもなく。裸のまま、与えられるままの雪の衣装を着て。幹と枝の黒ぐろとした肌
。風の向きに白く吹き付けられた白い陰。天を指している先端、その中心に祈り
がある。立てる、立華。祈りから始った華の形式。中心に向かう線。その様式の
確立に百年近い歳月があったと言う。五・七・五・七・七の様式の完成。言葉の立
華。短歌の定型の完成も同じ頃と言う。かって人は森から樹から文化も学んだの
だ。夏。緑の頭をした人たち。あるSFでは最初に地球を訪れた宇宙人が地球の
各地を見て周り最後のお別れの時地球大統領の”何が一番心に残りましたか”
という質問に答えて言う。”みんな素晴らしかった。でも一番心に残ったのは無口
なあの緑色の頭をした人たちです。”樹は過去でも未来でもやはり心に何かを伝
えてくれる存在なのだ。そう思う。樹や森に比べれば私は少しもそれ相応ではな
い。我を持ちすぎ暴走し自分勝手である。だから今日のような日は森に行きたい
と思う。白い森に。鳥たちと獣の足跡。雪の陰の秋の枯葉、木の実。それらを見て
ひぐらしひとり歩き廻りたいそう思うのだ。窓の外の氷柱がこちらの吊られた透明
なガラスと呼応して光を遊ばせている。その向こうに木が見えて呼んでいる。
*冬の高臣大介ガラス展「雪とgla_gla」-2月4日(日)まで。
AM11時-PM7時於テンポラリースペース
札幌市北区北16条西5丁目1-8北大斜め通り