昨日は午後から重たい事が続いた。場の存亡に関わる事。そして半年ぶりに訪
れた人。明るい響く声を上げて”わたし、覚えてます?”と声をかけてひとりの女
性が入口に立った。一瞬誰かは判らなかった。しばらく見詰めてあ~っと思い出
した。昨年7月村岸宏昭さんの個展の時来た人だった。美容師さんをしていて仕
事に疲れ気持ちの転換に歩いていてふらりと入って来て村岸さんと話しこんでい
た人だった。それから会期中に二度ほど訪れ村岸さんのCDを購入してくれた人
である。それ以来だった。村岸さんの死を彼女は知らなかった。その事実を告げ
ると顔がくしゃくしゃとなり目が潤んだ。なにか独特の雰囲気の人だったと想い起
すようにぽっりと語る。彼の作品を見、彼と話し何かが寛ぎ、仕事の行き詰まりが
あの時少しだけでも解消したのだろうか。奥のカフエに置いてある村岸さんの写真
を見せるとしばし座り込んで黙していた。大介さんの作品をその後見ていたが楽し
みながらも充分に集中できないようだった。あらためてまた来ますと言って帰った
。大介さんが彼女の名刺を見て”僕は天然パーマなので一度直毛にしたいんです
よ”と話し掛けた時は楽しそうな本来の明るい表情に戻っていた。”そのままが
素敵ですよ”と答えていた。そして実はその前に村岸さんのお母さんが見えてい
たのだ。ふらりと一人で見えて大介さんと話していた。私が紹介すると大介さんは
初めてお会いするので吃驚していた。ここの五月の仮オープンの宴の時に二階
の吹き抜けのベンチで大介さんと村岸さん酒井さんの三人が演奏し唄っている
写真が残っている。大介さんと村岸さんもここでの出会いが濃いのである。その
時の高臣大介展の芳名録に村岸さんのサインが残っている。ここの芳名帖は通
しになっているのでそのサインをお母さんに見せるとなんともいえない表情を見せ
た。帰り際大介さんが自分の展覧会の為に記帳を頼んだが今日は書けませんと
言って帰っていった。そんな事があった後に美容師の卵のNさんが来たのだった。
その後ここの存亡に関る通知があって何か午前中の明るい透明な時間が一転し
て暗く重い午後となった。