一夜あけるともう真っ白な銀世界。一面白い闇のカーテンが降りてくる。ドカ雪だ。
早目にギヤラリーへ向かう。着くと岡和田さんがもう雪掻きをしていてくれた。会場
に入ると雪明りに作品が浮き上がって繊細だ。心象の線がもつれほぐれ横一線に
並んでいる。映像を志す岡和田さんの残像のようなスケッチ。カメラが揺れ光が尾
を曳く。その光の揺れた動き、揺らめきそのままが描かれたような瞬間の定着だ。
言葉にも抽象にもならないもっとプリミテイブな発光のような弱い微かなもの。きっ
と実際に映像を取る時に撮影する前の呼吸の脈拍の心の律動を顕せばこんな線
が戸惑ったり決意したりするように心電図のように見えるのではないだろうか。
今日1日雪の光の中で作品を書き続ける。地上に静かに降る白いものそして地上
から反射し上に昇っていくもの。その中で描く。音も雪に吸われ空気も雪片に抱か
れ閉じられていく。彼のナイーウな20代が純粋に見詰められる自分の白い時間。
どう今日一日で完成するのだろう、結晶するのだろう。私はただ待ってそれを見る
積りだ。十勝の雪とは違うなあと問わず語りに呟いていた。円山とも違うよと私が
応えた。会話になっているようでなっていない会話。深々と降る柔らかな雪。音は
ない。風も無い。また何度目かの雪はねに出る。隣の家の人がもう朝から何回出
たかなあと話し掛ける。いっぺんにくるもなあと笑って言う。石狩さっぽろの冬。
吉増さん、ささやかな石狩人の独り言です。工藤さん、津軽の湿め雪とは違うでし
ょう。ウぷンー吹雪。うぷーしらこ。白濁した雪の宇宙。天地。面で捉えた雪。粒で
捉えた雪。ウぱシー雪。かけつこする雪。あ!日が射してきた。真っ直ぐな光燦々
と降る。岡和田さんとうとう撮影をしだす。映像を撮りだす。いいね、本領を出して
きたね。また陽が陰る。この光のうつろい。岡和田さん、絵そのままではないです
か。波長が合ってきっとたまらず彼は映像を撮り出したんだ。いい個展になりまし
たね。あなたの函が、函が溢れ出しましたね。