2006年 12月 14日
明治二十年代はじめ私の祖父は福井の三国港から船に乗り小樽へと上陸したと 聞く。小樽からは汽車に乗らず歩いて札幌へ向かい途中銭函峠あたりで札幌大火 の火を見たという。その後焼け跡の札幌へ入り働き自立したのが明治三十年だっ た。その話を古いお客さんから昔聞き、ずーっと小樽と札幌を二都物語のように考 えていた。このふたつの都市を結んでいたのは汽車という鉄路のチャンネルだった 。しかし天気予報で石狩地方と後志地方を分けるように別の国別の地域と今では 思うようになってきた。祖父に届いた古い葉書には住所が石狩国札幌区と表記さ れて残っている。明治三十二年と大正四年のものである。その後川を見詰めるよ うになって当り前のように分かった事は札幌を流れる川は石狩川と合流し日本海 へと開かれている事だった。川は小樽へと後志へとは流れない。それから小樽と 札幌という二都物語は文明開化の近代の汽車という機械が生んだ物流のチャン ネルと捉えるようになった。本州から移住してきた祖父の往路の目線とここで生ま れ育った私の目線の違いがそこにはある。札幌から出立して世界を見る。その時 私は当リ前のようにさっぽろから石狩を見、外界へと立っていくのだ。札幌ー小樽 のチャンネルには中央へと集権される棄民、棄地方の設定がある。物流を主体に した現在にも繋がるシステムがある。それは今もっと日常性のなかで高層ビルの エレヴェーターのように日常化している。機械が身体性に取って代わり目的地へ 運ぶ。今は情報も東京の六本木ヒルズの事は機械が手のとるようにここまで運ぶ がその為より身近な情報は棄てられている。郷土史をしろという訳ではない。頭だ けが身体を離れて跳び過ぎる弊害を思うのだ。その原点があの鉄路なのだと思う。 利便性は生活を豊かにもするが文化の契機としては時として対峙するものとなる。 ある人が「小樽が札幌の文化の河口である」と言っていたがそれは違う。小樽は 小樽であり、小樽もまた札幌を見てはその独自性を文化として喪うのだ。祖父が 移住してきた視線を離れ私はここから自分のチャンネルを創っていく。その時石狩 は自分の文化への河口となって世界を開く。そのチャンネルを通して吉増剛造の 「石狩シーツ」もあり、大野一雄の舞踏もあったのだ。生まれに問題を矮小化して いる訳ではない。祖父も含めた移住者の往路をここで生まれた自分の還路として 捉え返す時それをなぞる事にならないだけだ。祖父の旅立った三国港を訪れた事 がある。日本海に望む美しい港だった。港に今はドライブインが多くその内のひと つを遠縁の親戚が経営していた。初めて会ったその家のお婆さんは淡い記憶の祖 母に似ていて初めて逢った気はしなかった。汽車に換わり自動車が主体のその町 は船も鉄路ももう錆色の日本海の波の色のようだった。汽車は電車になり、海路は 空路になって港は車のドライブインが主体になっていた。それは、より早くより利便 性を目的とする物流の定めから仕方の無い事なのだろう。しかし寂れた港の風景 には棄てられない心に残る訴えってくる何かがあった。それは機械に取って代わる 前の人間の残り香があるからかもしれないと思う。そこに政治経済と違う文化の契 機、文化の河口は存在すると思う。それは私にとって遠い明治の祖父の出立の残 り香なのかもしれないが。 *吉増剛造「石狩シーツ」草稿展ー22日まで於テンポラリースペース 札幌市北区北16条西5丁目1-8 *酒井博史ライブ「Ⅲにして立つ刻歌生唱」17日(日)午後6時~1000円
by kakiten
| 2006-12-14 13:37
|
Comments(4)
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こんにちわ
わたしもブログを開設しました。 宜しくお願いします。
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岡和田直人展についてもう少しコメントしてください。
其の場所を使っての個展なのに何かもう少しギャラリストとしての言葉が必要かなと思いましたが、如何に? ![]() |
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