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テンポラリー通信

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2006年 11月 28日

異郷からの便りー冬のいのり(33)

ドイツ、ハンブルグに居るキューレーターSさんからメールが届いた。来年3月に
予定されている堀田真作展の為の評論文の依頼だった。きっかけは今ドイツに
いる谷口顕一郎さんの個展カタログに以前書いた私の文章を読んだことだった。
それから興味を持ちこのブログを読んでいて昨年11月の堀田真作展の記述も
気に入ってくれたと言う。そして何よりもSさんご自身が北海道帯広出身で札幌に
も二年ほど住んでいた経験があり遠い異郷から日本と北海道を見る眼差しが大
きく作用しているように思われた。失礼ながらその部分を引用させていただく。
<・・・中森さんの文章の中に札幌の様子が書いてあると遠いドイツにいる私まで
も、もの凄いイメージが湧いてきて、匂いも伝わりこちらに来て10年以上たってい
る私には懐かしい気持ちという感情が湧いてきてコンピユーターの前で一人で何
度も泣いてしまいました。本当に何とも言えない気持ちでした。特に冬の様子が
はっきりと私の頭の中で映像が見えたのです。>
ドイツという異郷でひとり孤軍奮闘している人の何とも言えない秘められた孤独感
がふっと溢れて北の冬の<匂い>まで甦った様子が痛いほど伝わってくる。日常
異郷の闘いの中で多分禁忌されていた故国、北海道そしてその空気が個の内側
から香り立って来る。だから、その固有の空気を異郷でも伝えなければいけない。
その固有の空気を、文化として自立していかなければならない。そんな決意がその
後の依頼の文章に意志として凛々しく伝わってくるのだ。かって美術家川俣正が語
っていた”インターローカル”という言葉を思い出す。きっと場所は違うがひとり冬の
路上を歩き廻り都市という異郷と孤軍奮闘していた私のさっぽろの小さな経験がそ
の基底において共通のトニカ(基調低音)となってSさんの異郷と通底していたのか
も知れない。”やあ!”と見知らぬ人とこうして出会う。個の小さな旗が遠い同じ眼
差しの人に出会う。そんな感じのする嬉しい便りだった。
このメールに返事を出した後あるスペースの展示を終えたMさんが来た。そして
間もなく一時帰札中の野上裕之さんと岡和田直人さんが来た。年末の個展の打ち
合わせをする。さらに宅急便でもう恒例のようになったKさんからの糧食が届いた。
林檎と柿が入っていた、野上さんからもご実家の林檎を頂いた。その後仕事を終
えた藤谷さんも来て定休日のこの日は厳しい月末に人の泉、真っ赤なリンゴの暖
かい日になった。

by kakiten | 2006-11-28 13:14 | Comments(0)


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