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テンポラリー通信

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2006年 11月 21日

不思議なアリスの日ー冬のいのり(25)

もう何年も会っていない東京にいる舞踏家糠信淑美さんから一昨日電話がきた。
体調崩しているらしい。いろいろと話を聞いた。翌日円い筒状の封筒が届いた。
中には奉書に筆で書かれた三年前に上演した「寺山修司に捧ぐ砂人形」の主題
詩「私の荒野」全文がさらに加筆され巻かれて入っていた。表題も「遊舞」と変えて
ひろげると5m以上あった。もう体もぼろぼろで足もままならず痛みに耐えて寂しさ
の中で書いたのだろうか。ひろげて見ていると筆の文字がまるで踊っているように
白い紙の上を流れていく。奉書の白い巻紙の上をするすると黒髪を振って舞うよう
に墨書が踊っていた。きっと踊りたいんだろうなあ。踊りを見て欲しいのだろうなあ。
最近大野一雄さんが百歳になり車椅子視力も衰えでも、なおかつ手のひらだけで
踊っているのをTVで見た。踊り手という表現者の執念にも似た表現への執着心が
感じられた。糠信さんの字にもそれと似た執着心を感じるのだ。同じ日に美術評
論家のKさんから手紙が届く。<自分の画廊でなければ、誰が出来る!位の気構
えで、やって下さい。>と檄文が書かれていた。今年八月の佐佐木方斎展以来K
さんの真っ直ぐな気持ちは時に落ち込みそうな自分をいつも叱咤激励するのだ。
そして午後に有本さん夫妻が来た。これから行くと電話があったのでジョンルイス
のバッハ平均律をかける。程なく夫妻が見え”えっ”と言う。自宅でも今朝同じ曲
を聴いていたと言う。最近このバッハとジョンルイスが沁みこむように分かってきた
んだと有本紀さんが語りだした。優れたピアニストで前のスペースのライブの常連
奏者だった彼に私は以前から同質の音を感じていたのだ。でも彼にとって本当に
それは最近の事だと言う。九月に家を引越しその場所の霊気も有ると言う。奥さん
のゆかりさんが見つけ彼女も体調が回復しつつあると言う。藻岩山の裾野に近く伏
見稲荷の傍と聞き驚いた。私の処で出すコーヒーの水はその近くで採取していた
からだ。界川の支流の湧き水である。その水の道は南に白龍大社北に界川神社
に続き琴似川水系で前のスペース此処にも繋がっているのだ。今度そこを歩きま
しょうと話した。いろいろな話をして外も暗くなりどこかでご飯でもという事になり外
へ出た。じゃあ家に来ますかと聞かれそうと決まった。バスで近くまで行き急な坂
を歩く。奥まった伏見稲荷の横の道。本当に稲荷さんの本殿に近い所に家があ
った。鍋の仕度をいそいそとふたりがしてくれ冷えた体が暖まる。落ち着いて中を
見ると外見よりも大きな広いお宅である。ここに来てから熟睡すると有本さんが言
った。山の霊気と静寂。何かの騒音に耐えていた時間の慣れという見えない疲れ
が癒されたと言った。ゆかりさんが見せてくれた彼女の仕事場には山葡萄の実が
沢山散乱していた。近くで採ったと言う。絵の色の素材に使うのだ。思いもかけず
お宅までお邪魔して辞したのは零時に近かった。なにかこの日1日言葉にならな
い不思議の国のアリスのような1日だった。心が集まって訪ねて来る日だった。

by kakiten | 2006-11-21 13:19 | Comments(0)


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