水焔のような時間の後静かな1日が来た。資料の整理と滴る水滴の調節に時間が
過ぎていく。電話が鳴り東京の今城恵子さんが今晩仕事の合間にくると言う。彼女
は映像作家の大木裕之さんの私設マネージャーをかってでている人で前のスペー
ースで制作された「オカクレ」という作品にも力を添えてくれた。今はさる大手の企
業チエーンの人事担当をしていて仕事で札幌に来ているようだった。是非新しいス
ペースをお訪ねしたいと言う事だった。今年一月の前のスペースの引越しにも手伝
いに来てくれたのでそれ以来であった。夕刻閉店近く岡田綾子さんが来る。今城さ
んから連絡あったと言う。彼女は今城さんとは一年振りで会うので楽しみにしてい
る。岡田さんはここは一ヶ月振りであの村岸さんの訃報を聞いて旅の途中急遽札
幌へ引き返し朝ここで蹲っていたのを大家さんの岩澤さんが見つけ中へ入れて慰
めてくれた事があった教育大四年の学生だ。今城さんを待つ間阿部さんの作品を
見ながら話は自然と故人の事になった。しかしもうあの時のような取り乱した悲嘆
にくれた様子はなく明るく淡々としていた。ただ昨夜の水の舞姫の話をすると”鳥肌
が立つ”といって腕を撫でていた。そう、表面は淡々としていても何かのきっかけで
心の奥の水面は波立つのだ。静かな淵になっているのだ。やっぱり蒸発する水煙
に両手を合わせていた。村岸さんとふたりでここの二階のペニキ塗りをしてくれた
事などが想い出された。二人とも180センチ以上あって長身のコンビだった。ほど
なく今城さんが来た。賑やかに華やかにふたりの女性が声を上げる。静かだった
空間が一気に変る。知らない人が入って来て見てもいいですかと言う。今城さんは
二階に上がり怖いけど面白いと言う。作品半分場所の案内半分で時間が過ぎた。
慌しく明日また来ると言って帰ったのは9時過ぎていた。元気で聡明な仕事する
女性だ。私は逆に疲れたようで急にお腹が空いた。そうだ、梁の陰のスクリーンを
見せてあげればよかったなあ。映像の設備もしてある所もね。