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テンポラリー通信

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2021年 09月 12日

現代のスタート・戦後ーメタフイジカル放浪(6)

故郷浪江に戻る決意をした原田洋二さんがシェアー
した敗戦直後の沖縄の子供たちの映像を見た。
私はふっと寺山修司が独自の視線から纏めた
1992年初版の「日本童謡詩集」を本棚から
抜き出し、藤浦洸 作詞の「東京キッド」に
眼を止めていた。

 歌も楽しや 東京キッド
 いきで おしゃれで ほがらかで
 右のポッケにゃ 夢がある
 左のポッケにゃ チュウインガム
 空を見たけりゃ ビルの屋根
 潜りたくなりゃ マンホール

これが敗戦後何年間かの戦後孤児の見詰めた
都市風景だったのだろう。
この歌の最初と終節は二番・三番の歌詞でも
共通するが、二番・三番真ん中の三行は、

 泣くも 笑うも のんびりと
 金はひとつも、なくっても
 フランスの香水 チョコレート

 腕も自慢で夢がある のど自慢
 いつもスイング ジャズの歌
 おどるおどりは ジタバーグ

鬼畜米英と原子爆弾で終結した昭和近代の末路。
その後に始まった戦後第二次近代は欧米への再び
の憧憬から始まったのだ。
一番の”右のポッケにゃ 夢がある 左のポッケ
にゃ チュウインガム”
再び敗戦後に夢見られた欧米への夢・・・。
そして現代の都市風景の原景とも思えるビル、マン
ホール・・・。
私たちは、屋根の見えない摩天楼・タワービル群、高速で
疾走する自動車・地下鉄・新幹線・リニアが支配する
巨大マンホール・地下道の今を生きている


そしてもう一つ浮かんだ戦後の詩は、戦中を潜り抜け
た鮎川信夫の最初の戦後詩「死んだ男」の詩行だった。

 埋葬の日は、言葉もなく
 立会う者もなかった。
 憤激も、悲哀も、不平の柔弱な椅子もなかった。
 空にむかって眼をあげ
 きみはただ重たい靴のなかに足をつっこんで
 静かに横たわったのだ。
 「さよなら、太陽も海も信ずるに足りない」
 ・・・・。

戦後近代の出発の空には、「東京キッド」が見上げ
る空には”ビルの屋根”が見える。
鮎川達戦争経験者が戦中で見た空は、廃墟と死者の
重なる上にある空。
地球の生命を支える光と水・・・太陽と海すら信ずる
事の出来ない究極の破壊の世界が見据えられている。
近代日本が鎖国を解き、欧米への憧憬が鬼畜米英というう
近代精神の国家的精神鎖国の果てに見た戦後近代の夢
とは”左のポッケ”に握りしめられた”チューインガム”
に象徴されるアメリカ物質文明だったのだろうか。

真の出発(旅立ち)は今も未明の裡に在る。

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by kakiten | 2021-09-12 16:32 | Comments(0)


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