陽射しが長く、気温が上がってくる。
桜咲き、野の花も勢いを増している。
画廊正面に並んだ保次の重厚な軟石洋館の油彩。
伸子の淡い色彩の溢れる公園風景。
南窓から西入口に移る陽光・時間とともに揺れる。
保次の絵画には20代東京へ行く前の、アンビシャスな
野心が息づいている。
重厚な石造りの洋館を描く視線が、濃く熱い。
一方80歳を過ぎた晩年の伸子の絵画は、少女のように
ロマンチックで、大通公園は淡い光に包まれて森も建物も
夢の縁取りに括られている。
左下に小さく描かれたひとりの男性が薄紫の着衣の女性と
思しき人を頭上に高く抱き上げている。
その傍にはライラックの紫の繁み。
伸子さんの20代のサッポロ浪漫だ。
こんな風に札幌都心部を描ける夫婦など、もう何処にも
居ないし今後も顕れる事はない。
1970年代に描かれたと思えるかっての宮の森・私の
自宅応接間に飾られていたふたりの絵画。
ともに油彩で、保次は緑主体の抽象絵画。
伸子は花と瓶の具象画。
ふたりの死後、私はこの2点を基軸にふたりの追悼展を
重ねてきた。
我が家の先々代からお付き合いのあった縁で、多分宮の森
に家を建てた1970年代に所有したと思う。
私が父の死に伴い帰郷した時すでにこの絵画は飾られていた
からである。
今はギャラリーの所蔵品としてテンポラリーに在る。
そして初めてこの2点をギャラリーに並べて時、今まで見え
なかったふたりの志(こころざし)が、カッコウとウグイス
のように木魂し合っているのを直観したのだ。
札幌固有の彩と光。
すると保次の抽象画の緑はフキノトウのように、伸子の
花の背景に深く濃く重ねられた黄彩が、福寿草の燃える黄に
見えてきたのだ。
ふたりは晩年都市ではなく、宮の森の山奥、山裾に満ち溢れる
この自然の光と彩を描き尽くそうと精進していたのだ。
80歳を過ぎ晩年の八木伸子が描いた遠い、懐かしい彼女の
サッポロ大通公園。
テナントビル群とテナントショップに埋められた小さなトーキ
ョータウンsapporoの現在からは想像もできない夢の風景だ。
重厚な石造りの洋館に立ち向かった青年のアンビシャス(野心)
年老いて遠く遙かな青春のサッポロを描いた女性のロマン。
ふたりは札幌を離れた事で発見した、都市風景ではない風土と
しての札幌原風景を光彩で表現しようと志したのだと思う。
抽象・具象などという区別を超えて、ふたりは&(アンド)で
結ばれ、優れて稀有な札幌という近代そして自然を生き抜いた
たのだ。
*八木保次・伸子展「札幌浪漫風景」-5月10日まで。
月曜定休・6日(水)8日(金)午後2時まで。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503