春の恒例として展示し続けている故八木保次・伸子展を今年も始めた。
2012年2月、3月と相次いで80歳代で亡くなられた。
あらためて亡くなられてふたりの遺されて作品を見ると、生前
保次さんの抽象、伸子さんの具象と単純に分けて見ていた愚かさを
感じる事が多々あった。
そこで毎年春の時期に、ふたりが死ぬまで追求し描こうとした
札幌の光と彩を製作年代に拘らず、ご遺族の高橋均氏、友人の
小杉山、平川君の協力を得て、テンポラリースペース所蔵の
2点を軸に毎年展示する事を開始した。
生前はその時々の個展、グループ展でしか見れなかった作品
たちが、持ち主の好みによって傾向が自ずから分けられ一堂に
会すると、革めてふたりが追求してきた世界が新鮮に輝いて
見えて来るのだった。
今年はご遺族の高橋均氏のご協力で、保次がまだ具象画を心掛
けていた1946年から50年頃の終盤と思われる作品「建物」
を展示した。
そしてこの後抽象に転化した最初の作品も同時に並べた、
伸子の作品は、私の希望で昨年初めて見た「大通風景」という
80歳代に描かれた彼女の札幌原風景と思える作品を、保次の
旧北海道拓殖銀行本店の移設された一部と思える「札幌軟石
建物」の作品と並べて展示した。
ふたりの制作年齢は、保次が20代、伸子が80代である。
ふたりの具象画が札幌都市風景を画題に並ぶ事で、ある時代の
札幌浪漫・近代モダニズム都市風景が甦るのだ。
明治ー大正に啓かれ、開花しかけた日本の近代モダニズム。
その原風景ともいえる建物と公園が、浪漫に満ちて20代の男性
と80代の女性のロマンとして溢れている。
我々が、現代が、遠く彼方に追いやった美しい近代が、ここに
は輝いている。
ふたりが生きてきた戦前・戦後という昭和の時代でしか実現しない、
喪われつつある正当な近代遺産として、時代の記憶に遺され続け
ねばならない。
*八木保次・伸子展「札幌浪漫風景」-4月28日~5月10日
月曜定休・5月6日(水)・5月1日・8日(金)午後2時閉廊。
テンポラリ―スペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503