2019年 10月 05日
。。。。。 「さよなら、太陽も海も信ずるに足りない」 Мよ、地下に眠るМよ、 きみの胸の傷口は今でもまだ痛むのか。 鮎川信夫の「死んだ男」の最終章が、今度の旅のトニカのように 響いている。 木造の古い酒屋の家で、詩人の家を2ヵ月開いた吉増剛造。 旅人を迎え、食事を共にし、一泊の宿を提供する。 生業の最前線に、詩人の店・主として座っていた。 3・11の深い傷跡遺る、牡鹿半島先端の地鮎川。 半島は樹木が緑深く海に挿す、海と空・光の半島。 先に着き仙台空港に迎えに来てくれたKA君とKI君。 彼らの運転するレンタカーに乗り、2時間程経て緑の傾斜 曲がり道の続く牡鹿半島を走る。 北の人間には珍しい森の植生。 鹿の親子も見る。 そして森が途絶え、海が見える。 新たに建造された防潮提の高い壁が海辺の視界を遮っている。 2ヵ月3.11の現場で詩の一生業主として滞在した吉増さんの 最終日の一夜。 二日滞在した牡鹿半島と石巻市。 半島には太陽と海と高い防潮提建造現場。 都市には津波で廃校の小学校とその前の墓石群。 大きな災害の後の<荒地>。 そして私には、戦後間もない昭和22年に発表された鮎川信夫の 「橋上の人」の一節が太陽と海の光と共に響いている。 あなたは聞いた。 氷と霜と蒸気と熱湯の地獄の呵責に 厚くまくれた歯のない唇をひらき 溺死人が声もなく天にむかって叫ぶのを・・・・ 「今日も太陽が輝いているね 電車が走っているね 煙突が煙を吐いているね 犬は犬のなかで眠っているね やがて星がきらめきはじめるね だけどみんな<生きよ>と言いはしなかったね」 一昨年の栃木県南那須・足利市・吉増剛造展。 昨年の沖縄・那覇・豊平ヨシオアトリエ。 今年の宮城県・石巻市・鮎川・詩人の家。 内陸の山を主体とする風土。 外陸の海を主体とする島・半島風土。 そうした宇宙・地球・自然に隣接する人間社会に触れて 日本の近代モダニズムが背負った負の近代を現代の事と して、鮎川信夫の詩を通して深く感じた旅だった。 原子爆弾を頂点とする戦災と地震・津波・原発の災害とは 一見違うようだが、その本質は人間社会の在り様として変わ らぬ構造的なものがあるような気がする。 私がこの濃い二日間で感じていた基調低音(トニカ)は、同 時代としての<荒地>だった。 橋上の人よ、 彼方の岸に灯がついた、 幻の都市に灯がついた、 運河の上にも灯がついた、 おびただしい灯の窓が、高架線を走ってゆく。 おびただしい灯の窓が。高く空をのぼってゆく。 そのひとつひとつが輝いて、 あなたの内にも、あなたの外にも灯がともり、 死と生の予感におののく魂のように、 そのひとつひとつが瞬いて、 そのひとつひとつが消えかかる、 橋上の人よ。 明治・大正・昭和近代77年ー戦後近代75年。 鮎川信夫の記した<近代の橋上>は今も変わらない。 窓の風景は 額縁のなかに嵌め込まれている ああ おれは雨と街路と夜が欲しい 夜にならなければ この倦怠の街の全景を うまく抱擁することができないのだ 西と東の二つの大戦のあいだに生まれて 恋にも革命にも失敗し 急転直下で堕落していったあの イデオロジストの顰め面を窓からつきだしてみる 「繋船ホテルの朝の歌」4連目のこの風景は、まるで1960年代 以降の岸上大作や奥浩平の安保闘争以降の風景のように今見える。 2011年三月十一日から8年を超えた被災地の風景は、私には この鮎川信夫の詩の風景と変わらぬ風景を、見詰めていた気がする。 宮城県石巻牡鹿半島・鮎川は、戦後詩人鮎川信夫への旅でもあった・・・。 テンポラリ―スペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2019-10-05 17:37
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