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2019年 07月 21日

石狩・カムチャッカー大野一雄の戦後(9)

1999年8月大野一雄宅で収録された吉増剛造と大野一雄
の対話「生と死の舞踏(石狩ーカムチャッカ)」で大野一雄は
語っている。

 戦時中、私はニューギニアで二年間将校として働いていました。
 あるとき八千人の人が移動して、前の人が道に迷うと、それに
 ついて行った六千人が死んで、二千人が残った。
 そして食うや食わずで体がボロボロになって、おできができてね
 ・・・・・
 いよいよ負け戦になって終戦になったわけです。
 一万トンの船に何千人と乗って日本に向けて出発する。
 ・・・・けれども、次から次へと人が死んでいく。すると、国旗に
 包んで水葬をやるわけです。ブーッと汽笛を鳴らして、二回か三回
 か船を回すのです。本当にそれはね、悲しいですよ。

ラ・アルヘンチーナの公演を見た青年時代、
その舞踏への憧れは、国家の一元的なショートカット価値観によって
暗渠化し、戦争従軍に埋没していった。
奇跡的に帰国を果たした1948年、息子慶人は10歳で初めて
父一雄と対面する。
そしてついに父の生涯中、父とは呼べなかったと回想している。
慶人さんの10歳以降の人生は、米国が占領し自由・平等を理念と
する米国型民主主義の時代である。
そこには、父一雄が体験した阿鼻叫喚の日常の地獄はない。
その意味で、私たちの多くは慶人さんの時代を前提に今がある。
大野一雄が生き抜いた近代とは、明治・大正の18世紀末から
20世紀にかけての大きな亀裂の近代と言える。
モダニズムの芽生えと断絶を経て、帰国後の大野一雄の真の人生
があったのだ。
慶人さん世代以降の現代とは、ある意味でそれ以前の近代化・挫折
をショートカットし、暗渠化された日常・平和を生きている。
昨年亡き父一雄に代わり、吉増剛造「舞踏言語」出版記念会で指人形
の一雄と共に見せた舞踏。
エルヴィスの「好きにならずにはいられない」の曲・詞・唄の舞踏
は、顔の表情と手だけで見えない父子の近代の陥穽を見事に埋めて、
父子の情を顕わにしたものだった。
そのエルヴィスの曲について、上記と同じ対談でさらなる展開を大野
一雄は語っていた。

 これからこういう舞台を演るのです。カムチャッカのヒグマです。
 ・・・・
 家は船を三艘持っていて、カムチャッカで漁業をしていました。
 ・・・・2,3年前に親戚の叔母さんからの手紙で、そこがどこ
 なのか知ったのです。ですからカムチャッカのどこに行って踊り
 たいかはちゃんとわかっているのです。
 ・・・・わたしはカムチャッカに行って、日本の人、それから
 ロシアの人に踊りをちゃんと見せて、交流しよう、お互いにつな
 がっていく力になりたいと。
 ・・・・
 そういうなかで、今度は「偉大なる神」プレスリー、「好きに
 ならずにはいられない」のプレスリー、こういう曲をいれて
 踊ります。

この対話では石狩―カムチャッカを繋ぐ鮭から羆を主題とする
生と死の熱い想いを語っていた。
石狩河口公演以降、稽古場でも使っていたというエルヴィスの
曲「好きにならずにはいられない」。
この時点で大野一雄の中で、あの阿鼻叫喚の日本・米国戦争は
国家・社会の位相から宇宙・地球自然の生命の境地に入魂して
いたと私は思う。
その深い転位は、きっと長い父子の間の陥穽も埋めたのだ。

大野一雄を、カムチャッカに行かせたかった。
そしてロシア人と先生のお父さん、お祖父さんと、プレスリーの
「好きにならずにはいられない」の曲に乗せた先生の羆の舞踏を  
見たかった。
地球大自然・宇宙の階(きざはし)のような石狩河口公演の後、
国家・社会を越境し、生と死を越境する、大野一雄の渾身の近代。
その狭間・界(さかい)に、米国ではないアメリカ・ランドが
垣間見える。

 反コロンブスはアメリカを発見せず
 非ジェファーソンは独立宣言に署名しない
 われわれのアメリカはまだ発見されていないと

            鮎川信夫「アメリカ」1947年7月

百年の近代を超えてきた優れたふたりのモダニズム。
そのふたりの近代が、現代の根として、眼として激しく交感し、
我々の現代の足元に在るのだ。

*追悼・大野一雄の近代展・三期ー8月18日まで。
 am12時ーpm7時:月曜定休:水・金曜日午後3時閉廊。
*斎藤周個展ー8月23日ー9月1日

 テンポラリ―スペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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by kakiten | 2019-07-21 14:13 | Comments(0)


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