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テンポラリー通信

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2019年 06月 22日

源流としてのモダニズムー大野一雄の戦後(3)

舞踏家と詩人のモダニズム、
奇しくも同じように戦争ー敗戦を経験し、深い近代の亀裂を抱いて
現代の坑口に立っていた。
敗戦後の帰国途上、海の上で。

 船はいつか
 黒い海のうえを走っている
 太陽はかたむき
 とおくの水平線は
 青空の無のなかに溺れようとしている 
 ・・・・・
 海底には
 何万という水兵と
 ゆうに一連合艦隊が沈んでいる
                   鮎川信夫「消えゆく水平線」

大野一雄が帰国の船の中で経験した話。
後に「水母の踊り」として演じた。

 一万トンの船に何千人と乗って日本に向けて出発する。
 その時にいろいろな人が、「これから出発する、元気を
 出してやろう」と言うのだけれども、次から次へと人が
 死んでいく・・・
 ニューギニアの帰り、生者と死者たちの体験。
 多くの人が船中で死んだ。
 水葬をして帰って来た。

                  「front」誌1999年1月号

T・Sエリオットを愛読し、新たな詩の可能性を試みていた鮎川信夫。
アルヘンチーナに憧れ、新たな舞踏の道を志していた大野一雄。
そのふたりの近代の道が日米戦争で閉鎖され徴兵され、敗戦の途上
で体験した死者の海。
この生と死の体験が、ふたりの近代には深い海峡のように
横たわっている。
戦勝国米国が故国を占領し、新たな近代化が進められる日本。
その新たな時代の始まりに、鮎川信夫は長編詩「アメリカ」を書き
、自身の内なる近代・アメリカを抽出し、訣別し、対峙していた。

 ・・・
 僕は眼をかがやかし涛のように喋りかける
 だがあたりには誰もいない
 空虚な額縁のなかで白い雨が乾いている
 無言で蓄音機のレコードが回転する
 「アメリカ・・・・」と壁がこたえている
 ひとり占いの賭博者のように
 眉をひそめて手のなかのカードを隠してしまう
 あらゆるエイスの価値と
 護衛付きのキングと慰めをあたえるクインの価値とが
 頭のなかでごちゃまぜに縺れる
 「アメリカ・・・」
 もっと荘重に もっと全人類のために
 すべての人々の面前で語りたかった

そしてこの後に続く後年消された三行は、明治以降の近代化=
西洋化の憧れと吸収の深い亀裂体験を伝え、現代に連なる界
(さかい)の橋のように心撃つ。
 
 反コロンブスはアメリカを発見せず
 非ジェファーソンは独立宣言に署名しない
 われわれのアメリカはまだ発見されていないと

近代から現代へ、
その界(さかい)の境界にある近代の端(エッジ)。
それが鮎川信夫の<アメリカ>だ。

一方大野一雄にとっての<アメリカ>とはより個として、息子
慶人さんのエルヴィス・プレスリー唄・曲の指人形の舞いに
大野一雄のアメリカが初めて顕れていると思える。

LiKe a river flows surely to the sea
Darling so it goes some things are meant to be
Take my hand,take my whole life too
For i can,t help falling in love with you

海へと確実にそそぐ川のように
流れに身をゆだねるべき時もある
さあ手をとって、この人生を捧げよう
君を好きにならずにはいられない

二度繰り返されるこのフレーズに印象的なのは、海と手である。
海に続く川、そして手に続く人生・命。
戦後近代と現代の界(さかい)、戦後のアメリカを代表するプレスリー
のこの歌曲を大野一雄は1991年秋の石狩河口公演以降稽古場で流
し、さらに祖父・父の働いた漁場カムチャッカで公演を夢みその公演
にこの歌曲をと、熱く晩年に語っていた。
鮎川信夫が夢みたアメリカ。
その夢が大野一雄にもエルヴィスの唄・曲とともに訪れて
いた気がする。

鮎川信夫の「アメリカ」最終章に近く記された詩行・・・。

 憐れむべき君たちの影にすぎぬ僕は
 きちんとチョッキをつけ上衣を着て
 テーブルに凭れて新しい黄金時代を夢みている
 いつの日か 僕らの交わす眼ざしや
 なにげない挨拶のうちから生まれる未知の国民のことを・・・
 
ふたりのモダニズム、ふたりの近代の深い亀裂。
そこから戦後近代ー現代へと橋渡しされた心の架橋は、個と
して支流の、源流への想い。
そして大河・海という広い社会・時代への深い夢だっただろうか。

*大野一雄追悼「一雄&エルヴィス」展ー6月30日まで。
 am12時ーpm7時:月曜定休;水・金午後三時閉廊

 テンポラリ―スペース札幌市北区北16条に西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

 








    


by kakiten | 2019-06-22 17:05 | Comments(0)


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