出版編集企画の竹中英俊さんが茅ケ崎から来て、本居宣長の
「古事記伝」原本を見せて頂いた。
前回見せて頂いた、25歳福沢諭吉編集の英語・中国語和語
辞典も、その苦闘する翻訳語に明治の若々しい青春を感じて
面白かったが、漢字・平仮名を駆使し古事記を日本語に定着
させた本居宣長の情熱が、装本・木版活字の美しさに顕れて
いて、感動した。
美濃紙を使った和紙の一葉、一葉の、時を超えた存在感。
そして掌にしっとりと納まる書物全体の存在感。
掌に保ち、一葉ずつ頁を捲る優しく微妙な指先の感覚。
18世紀の国学者本居宣長の瑞々しい感性が、そのまま
書物の形をして凝縮している。
三百年近い時を超えて、この書物自体が少しも古びては
いない。
漢字に訓読みを加え、平仮名と漢字を組み合わせた文章。
それをしっかりと受け止めている木版文字と美濃紙の
しなやかな強靭さ。
そして何よりも和紙と木版印刷とが保つ植物の有機的な
相性が奏でる心地良さ。
さらにその総体を掌(てのひら)で受け止め、包み、捲る
快い重さ。
人の手に渡り、人の手の油を吸い、さらに書物は長持ちし
活きてゆくと云う。
短い最新が横行し、直ちに古へと見捨てられて行く現代。
その価値基準とは対極にある書物という有機的なモノ。
そんな背筋を伸ばし書物と向き合う時間を、何時の間にか
喪ってきた自分を思うのだ。
もう古い、最新の・・と警告を送ってくるパソコンの画面
を睨みながら。
*斎藤周展「継へ」-8月15日(水)ー26日(日)
am11時ーpm7時・月曜定休。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503