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テンポラリー通信

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2018年 06月 12日

幻の高層湿原ーサッポロ・ランド(18)

故賀村順治の<俺は帰れ 胸の奥処の 泥の温み その
肉声の端緒の祖国(くに)へ>に触発され、今は失われ忘れ
去られてしまった大河石狩川中下流部に広がる石狩平野の広
大な泥炭湿地帯の面影探索に出掛けた。
この石狩湿原には、雨竜沼や尾瀬のような数千年の年月を
かけた高層湿原も広く存していたという。
その99%以上が開発により消失している。
そんな中、2016年に札幌からほど近い新篠津で、原野商法
の遺物として残され笹原になってしまった原野でかすかに太古
からの命を繋いでいた湿原植物が再発見されている。
その植物を見る為「新篠津ツルコケモモを守る会」の斉藤央氏
の先導で探索に参加した。
クマイザサなどの浸入、乾燥化、冨栄養化などの環境悪化で
高層湿原固有の植物は全滅の危機にある。
かって雨竜沼湿原に通いつめた私としては、こんなに札幌に近
い場所でしかも高層ではない場所に、高層湿原の植生が息づい
ていた事実に深い興味を感じていた。
その大きな原因要素は、泥炭湿原という地質にあったのだ。
屯田兵の末裔賀村順治が愛した新琴似の<泥の温み>。
それは泥炭湿原の育てた高層湿原の植物たちと心通うものがある。
そこではタンチョウズルが舞い、河畔林には冠水に強いハルニレ、
ヤチダモ、ハンノキが混生し、その大木にはシマフクロウも生息
していたという。
賀村順治が愛おし気に案内してくれた新琴似原風景には、きっと
そうした新琴似泥炭湿地帯の原風景が反映していた気がする。

生い茂る笹薮の中、斉藤央氏の適切な案内で、数時間隈なく
歩き回り、懐かしい一輪のワタスゲの綿毛を見た時は、雨竜沼
湿原の遠い時間を思わず思い出していた。
天国に一番近い場所。
そんな高層湿原の美しい記憶が、<新>と名の付く札幌郊外地域
に泥炭地帯のお陰で石狩湿原として存在していたのである。

俺は帰れ胸の奥処の泥の温み その肉声の端緒の祖国(くに)へ

その祖国(くに)は、自然の歴史的事実として、目の前にある。
そしてこの自然を衰退させてきた人間のもうひとつの歴史的事実。

戦場へ 行く早鐘のランナーの 背中に涙あふれていたり

もまた、この泥炭湿原の保つ戦場の<涙>だったのだろう。
この日は午後夕方から、石狩ウエンの浜でメノウの石を
みんなでひろった。
幻の石狩高層湿原と賀村順治、<泥の温み>に供えるように・・。

*八木保次素描・ガッシュ展ー6月17日(日)まで。
 am12時ーpm7時:月曜定休・水・金午後3時閉廊

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503



by kakiten | 2018-06-12 14:01 | Comments(0)


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