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テンポラリー通信

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2018年 06月 02日

身の生きる場ーサッポロ・ランド(13)

「メイ」の取材撮影で名寄に出かけていた大木さん
が、帰る前テンポラリーに寄る。
連れの人が古い友人で、今福島県北海道事務所のT氏。
3・11以後北海道に避難してきた県民の仕事で最近
札幌に赴任して来たという。
昨年5月吉増展で深い出会いをした福島県浪江の原田氏
の事もあり、何かふっと出会いの予感がする。
奥の談話室に坐って間もなく、T氏が棚にある村岸宏昭
主演・楽曲のパリ短編映画祭グランプリ受賞のDVDに
注目した。
最近この映像を知って興味あったと言う。
えっ、という事になり、5分程の映像を見せる。
2006年8月13日四国鏡川で遭難死。
その前月テンポラリースペースで個展「木は水を運ん
でいる」をし、22歳で夭折した村岸宏昭。
この出会いで初対面の福島のT氏と一気に距離が深まる。
しかも当時ムラギシが四国を訪れたのは、隣の大木裕之
さんを尋ねての事だった。
大木さんはさすがに心痛むのだろう、映像を流す前に買
い物に席を外す。
夕刻帰京前の短い時間、濃い話が続いた。
そこへ来月個展予定のチQくんが来て、十数年ぶりに
大木さんと再会する。
これを機に大木・T氏が帰った後チQくんの話。
母親が最近病重くなり、来月の個展延期も考えている、
どう思うか、という相談だった。
この何年間少し低迷気味な彼に、私は強い心で作品を
母上に見せて勇気づける気持ちで作品を仕上げたら
と話した。
自分のしたい事をして見せるのが、最大の親孝行と思う
と告げた。
母に寄り添う子ではなく、自分がしたい事をする自分を
自信をもって見せてあげる。
それをしないと、何時までも私の所為でお前に迷惑を
かけて・・・とお母さんも自分の内に閉じてしまう。
先刻ムラギシの追悼本を購入してくれたT氏を例に、
息子の死後息子の仕事に励まされその記録を纏め遺作
・追悼の本造りにみんなと情熱を傾け、本完成直前に
亡くなった母村岸玲子さんの事を話した。
作品は死後も遺ってチQくんの母と同じ病の村岸の母を
勇気づけたのだと。
ふっと涙目だったチQくんは、その後さっぱりした表情
で勤務の仕事に戻って行った。

人は様々な与件状況の中で生きている。
そして時にその与件状況を脱する行為を身を以って行う。
行動する身は、この時心をコアとして呑み込んでいる。
黒人でジャズマンのジョンルイスがバッハに憧れ、その
様式を取り入れたジャズ演奏をした時、クラシック、モ
ダーンジャズ界両方のから批判されたと聞く。
そしてまだ人種差別も多い社会で、彼は人種差別・ジャ
ンル差別の両方の社会的与件差別の中で彼の音を追求した。
晩年彼はピアノソロでバッハの平均律、奥さんと共演の
ゴールドベルク変奏曲を遺している。
本当にしたい事を彼はしたのだ。
最愛の人とともに。
ジョン&ミリヤナ・ルイスの名でバッハを演奏している。
ここに観念的社会差別はない。
身を以って与件を突破し、実体(作品)としたのだ。
この作品が生まれ、生き抜く世界こそ、もうひとつの人間
の国(ランド)といえるのかも知れない。

*八木保次素描展ー6月5日〈火)-17日(日):月曜定休
 AM12時ーpm7時:但し水・金午後3時まで。


 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503





by kakiten | 2018-06-02 18:40 | Comments(0)


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