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2018年 03月 22日

一本の麦ーランドへ(2)

稲=ライス、麦=パン。
そんな直線回路を私たちは生きている。
生命総体としての稲穂・麦穂を消去してだ。
無意識の内に稲自体の姿容(すがたかたち)、
麦自体の姿容(すがたかたち)を喪っている。
秋元さなえは、美術家としてそこを一本の麦だけ
の構成で、展示空間を豊かな江別の麦畑、風、水、
川、土、光の潤いで満たしている。
その事は何よりも来場者の長く寛ぐ姿、滞在時間
の長さに顕れている。
下階の麦の茎の直線だけで構成した宙に浮かぶ造形。
吹き抜け2階の床板に立つ芽生えるような穂茎。
土と繋がる様に麦の直線が結ぶ地下・地上世界。
植物という有機的な生命体が保つ直線の豊かさは
誠に凛々しい緊張感、充実感がある。
AからBへ最速で結ぶような直線ではない。
土中から立ち上がる伸び立つ生命体の、凛々しい
有機的な直線なのだ。
そして同時にその目線は麦が呼吸する風の容(かたち)、
風景・広がる世界へと感受される。
吹き抜け上床の林立する麦林、そしてその1階真下床に置か
れた泉のような円い鏡。
さり気なく2階に置かれた江別の歴史資料・地形図。
作家が紙に描いた2点の俯瞰する江別風景が、麦穂の目線で
会場に共存している。
来場者が梯子を階段を上り、上下で寛ぎ時を過ごす訳は、
この空間と作品空間の一体性に拠ると思える。
そしてそれは、麦の保つ生命体の力に拠って結ばれてい
るからだ。

西洋・主食パンの素材・麦。
東洋・主食米の素材・稲。
どちらもが食糧素材以外に深く人の生活と関わり衣食住
とともに活用されてきた生命体。
麦は米と比較すれば、近代北海道に来た食材植物といえる。
私たちの日常食にご飯とパン食が両立するようになったのは
明治以降の150年である。
そして現在喪いつつあるのは、ライス、パンという直線的
結果主体のショートカットされた麦・稲総体の過程である。
麦総体の生命体としての姿容、稲自体の生命体の姿容。
美術家はその多様性をショートカットされない麦の直線の凛
々しさで訴えてもいる。
お酒・ビール、畳・帽子等衣食住文化の原点に関わる強靭さ
を、この展示は一本の麦に秘めている。
西洋化という近代を、ショートカットせず、豊かに凛々しく
至る本質的な文化の道筋を、江別の細い一本の麦の姿容(
すがたかたち)が、告げている。

展示のタイトル「ランドへ」とは、そうした世界への希求の
メッセージ、そのものでもあるだろう。

*秋元さなえ展「ランドへ」ー3月20日ー25日
 am11時ーpm7時

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503





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by kakiten | 2018-03-22 15:17 | Comments(0)


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