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テンポラリー通信

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2017年 06月 29日

時を超え纏うものー泉=メム(15)

今回江戸末期のものという着物が展示されている。
3人展のひとりCadbunnyさんのものだ。
彼女の曾祖母のものという。
裏地はすでにぼろぼろに傷んで、展示時その絹の
一部が剥落し、床に散っている。
しかしその内側の赤と外側の黒の対比は鮮烈で、絹の
保つ存在感は少しも損なわれていない。
背中の黒地に拡がる刺繍も黒地に映え見事なものである。
もう用としての役割は果たせないだろうが、この着物を
創った匠の技は劣るどころか、時と傷みを経て益々輝いて
さえ見えるのだ。
かって纏っていた人の身体は無くても、どこかその身体
の温かみが宿っている。
着物という物は不思議なものである。
身体に添って身体を包む。
先に衣装という形が、あるのではない。
人という身体の容(かたち)が纏うのである。
帯や袖丈はその身体に合わせて調えられる。
そしてその美は、纏う事で全身で感受される。
掌全体で、体全体で、人の生活の風景のように美がある。
特化した額縁の内、非日常の美ではない。

そんな事を考えていて、ふっとレトロスペース館長の坂
一敬さんを思い出した。
そして電話する。
するとすぐこれから行くよ、と応えてくれ、間もなく
副館長の中本さんとともに来てくれた。
恒例の坂ビスケット一箱土産に・・・。
今回の三人展、様々な置き忘れられ、見捨てられたもの
の再生・再発見を、それぞれの三人の目線から再構成され
た展示に、坂さんも共通する眼があって感慨深げであった。
着物に触れ、2階回廊に座り込み、長時間見ていた。
その後懸案の私とのトーク資料「’89アートイヴェント
界川遊行」のヴィデオを見せる。
札幌円山地区をかって流れていた界川。
都市化と共に暗渠化され見えない川となったこの川をその
かっての流域にアートで繋ぎ流れを再現した1989年の
イヴェントだ。
ありとあらゆる一時代の物品を蒐集し展示しているレトロ
スペース。
マニアックな一部の物ではない、その根底的ともいえる激し
い全方位目線は時代に対峙する後衛の保つラデイカルさと
いえる。
レトロスペースはその意味で、坂さんの個的<全>共闘
なのだと思える。
現代の物質文明がその先端志向で切り捨て消費し捨て去る
物たちを、徹底し受け止め問い続ける。
背後に消え去る時代を背中に背負いつつ、眼は前方の移ろ
う今を睨みつけている。
最前列にして最後尾のラデイカルな精神である。

今は消えつつある界川・円山の、空・建物・路・川。
ものだけではなく、風景もまた消去されて今がある。
懐古ではなく、同時代の事としてふたりで語り合えたらと
感じていた。、

20代若い表現者たちと坂さんの同じ視座の眼差し、
その邂逅が、束の間訪れていた時間だった。

*三人展「なんのためにあるのか」ー7月2日(日)まで。
 am11時ーpm7時
 :7月1日(土)午後2時~「街歩きのワークショップ」
  参加費1500円お茶・お土産付き

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2017-06-29 11:59 | Comments(0)


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