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テンポラリー通信

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2017年 04月 23日

浮き世ー暗渠(12)

ある時代、そこに生きた人の想念が息付いている。
八木伸子「札幌大通りーリラの季節」。
淡く全体を彩る新緑の緑。
そして中央に聳える鉄の塔。
その下方左下にリラの紫の茂みと白いシャツの痩身
な男性が紫に煙るような女性を高く抱き上げている。
そしてふたりが描かれた画面右端に西洋のものと思
しき街路灯がくっきりと描かれている。
公園両側の建物は省かれ、白く塗り潰された方形の
姿が浮かんでいるだけだ。
空には鳥が数羽舞い淡い空の青世界が広がる。
この輪郭の霞のような筆致に、私は伸子さんの母上、
松本春子の仮名文字の世界をふっと想い出していた。
輸入された新しい文字文化・漢字の世界。
そこに掠れと滲み・省化の独自の和文字創出。
そして明治の西洋化という近代の中で、新しい都市に
生まれ生きたある純粋な想念を思うのだ。
油彩という西洋描法にカナ文字のような淡いの筆使い。
そこには西洋と伝統の対立・亀裂はない。

明治に入り江戸という町は東京という都市に衣を替える。
江戸城は皇居となり、貨幣鋳造地の銀座は煉瓦が敷かれ
ガス灯の灯る西洋通りとなった。
明治以降開拓使が置かれ近代とともに開かれた札幌という
新しい都市には、東京のように風土としての江戸はない。
蝦夷地の新都市札幌はその意味で東京近代より、より純粋
培養され具現化していたのかも知れないと思う。
しかし伸子さんの母松本春子、保次さんの母八木敏さんに
象徴される書道、華道、俳諧という伝統文化を母体土壌と
して、保次・伸子の油彩絵画は存在したと思える。
明治以降の近代の小さな花は「札幌大通りーリラの季節」
に見られる風土と成って咲いているのだ。
新都市サッポロは心のランドマークとして、晩年伸子さん
の淡やかな夢のように咲いている。
文化としての近代を、カナ文字のように柔らかく滲ませて。

*「彩」八木保次・伸子展ー4月23日(日)pm7時まで。
*吉増剛造展「火ノ刺繍乃道(ルー)」ー5月9日ー28日

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2017-04-23 11:26 | Comments(0)


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