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テンポラリー通信

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2017年 04月 18日

札幌モダニズム(Ⅱ)ー暗渠(9)

今回の「彩」八木保次・伸子展では、初見の八木伸子
「リラの咲く頃ー札幌大通り公園」と題された作品に
惹かれる。
淡い色彩にTV塔と新緑の大通り公園が描かれている。
所有者の高橋均さんの話だと亡くなる1年程前に描か
れた作品という。
大通り公園を取り巻くビル群は淡い色彩に霞んで、新緑
の清んだ緑が風景を包んでいる。
そして左下に女性と思しき人を抱き上げる男性が描かれて
いて、その姿は保次さんのようにも見える。
とすると、抱きあげられて宙に浮いている女性は伸子さん
だろうか、と想像する。
札幌という街への伸子さんの愛を感じさせる一点だ。
この場所から南へ200m程の所の松本医院で生まれた伸子
さんの札幌の原風景なのだろう。
保次さんの生まれたさらに南へ数百mのススキノとはまた
違う札幌の街の原風景なのだ。
都心の中央を東西に貫く大通り公園。
南に広がるススキノ遊興街と寺社、川、池の広がる中島公園。
その界隈の風土性の相違は、伸子さんのこの絵画にも色
濃く出ているような気がする。
私自身も伸子さんと同じ界隈で生まれ育った所為もあって、
幼少期の原風景のひとつが大通り公園界隈である。
その大通り公園を初夏の煙るような緑とふたりの男女、
エッフェル塔のような鉄塔とともに描いた伸子さんの晩年
の札幌への愛とロマンを思うのだ。
保次さんは、晩年暮らした札幌西部・宮の森の自然が保つ
色彩に自らの絵画の彩(いろ)を見続けた。
乱舞し奔放に描き続けたその絵画の原点には、祈りと遊興の
ススキノ界隈の風土があったのかも知れない。
伸子さんの場合には大通り公園に象徴される整備された街の
気品のようなロマンが潜んでいる。
自然風土に根差した色彩のモダニズム、
時代社会に根差したロマンのモダニズム。
一方は抽象で一方は具象と生前分けられていたが、
さらにいえばシテイとタウンのような街の風土の
相違もあったのかも知れない。
しかしふたりが故郷で再発見し見詰め追い求めて
いたものは、その風土が育んだ独特の彩りという
光・色だったと思う。
大通り公園を柔らかく抱くように描かれた新緑の緑。
その色彩こそが故郷で発見した初夏の彩(いろ)と思う。
今回展示された保次さんの乱舞する桜吹雪のような作品も、
一気に多くの花が開花する札幌の5月の花宴を想起させる。
藻岩山を望み大きな池と川が流れ三社の神社が囲む中島公園。
それに繋がる飲食街と多くの寺社を擁するススキノ。
大通り公園とはまた違う札幌モダニズムのもうひとつの街原
風景なのだ。
誕生して百余年の札幌という都市が抱き育んでいた近代と
いうモダニズム。
その原風景をふたりの絵画は、愛おしむようにその根を
深く抱いて、今在る。

*「彩」八木保次・伸子展ー4月23日まで。
 am11時ーpm7時:月曜定休・都合により水・金
 午後3時閉廊。
*吉増剛造展「火ノ刺繍乃道(ルー)」ー5月9日(火)ー28日(日)

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2017-04-18 15:22 | Comments(0)


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