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テンポラリー通信

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2017年 02月 03日

風景というカルチャー(耕土)ー広い河口(20)

その地固有の風景も掛け替えのない文化である。
そこには先人の険しい自然と闘い、調和を獲得し
た借景の美がある。
月寒丘陵の台地に酪農の地を切り開き、今も美味
な牛乳と農作物を市民に直売している八紘学園の
敷地を野球球団に提供する話が札幌市から出ている
と報道された。
黒沢明の札幌を舞台とする映画「白痴」でも、その
丘の坂道の風景シーンは印象が深い。
八紘学園の坂道だけでなく、他にも多くの昭和20
年代の札幌の風景がこの映画には映されていた。
北大近くに在った有島武郎邸、札幌駅の陸橋、旧
札幌駅前、五番館、二条市場界隈、中島公園・・。
それらの風景は凍てつく太い氷柱とともに、不思議な
異国情緒の近代風景を画面に映し出していた。
北国の自然風土と近代モダニズムが融合した札幌という
街の固有の美しさがこの映画の大きな主役でもあった
と思う。
ドストエフスキー原作の白痴を札幌に置き換え制作さ
れたこの名作は、公開時大幅にカットされ黒澤明の怒り
を呼んだ。
しかし未発表のシーンも含め、この映画の大きな主役は、
かってあった札幌の都市と自然の織りなす稀有な風景で
あったと思う。
その時代を今に残す唯一と言っても良い八紘学園の敷地を
一プロ野球球団の練習場に売り渡せとは、どういう事なのか。
近くに在る札幌ドームとの兼ね合いと思うが、ドーム建設
時併設された野外美術群通称「アートグローブ」と同様に
なんらこの地の自然との融合性、文化の創造性が観じられ
ない。
この頃から際立って、自然との境を敬意と畏れを抱いて
界(さかい)を創るという借景の美学が絶えてきた気がする。
なだらかな丘陵地帯の特色を活かし、酪農の地を切り開いた
官の北大農学校とはまたひと味違う民間の酪農場。
その丘陵・酪農風景もまた札幌の風景文化遺産である。
そこには札幌東南部独特の月寒丘陵の自然が活きている。

荒々しい自然野生を借景とし、先人はカルチャー(耕土)
として風土を活かした。
機械力インフラに全てを委ね、自然への畏敬の念を捨て去る
人間の傲慢さをこの頃から突っ走って、今がある気がする。

*高臣大介ガラス展「奏であう」ー2月14日(火)ー19日(日)
 am11時ーpm7時。
*中嶋幸治展「分母」制作・販売ー3月4日(土)、5日(日)。
*吉増剛造展「火ノ刺繍乃道(ルー)」ー4月予定。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503

by kakiten | 2017-02-03 15:00 | Comments(0)


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