2016年 10月 15日
橘内光則の絵画に描かれている食卓の日常で印象的なのは、 朝のトースト、夜のワイン、そして午後のショートケーキ。 そしてこれらの傍らには、必ず浮世絵から忍び出たような 和服の人物が寄り添っている構成だ。 京都は朝パン食が多いと聞いている。 日本の古都では洋食文化も深く根付いているようだ。 そんな京都の生活の影響もあるのだろうか、和と洋の不思議 なコラボが、画面にクスリと笑えるように共存している。 最も完成度の高い作品は、キャンドルに寄り添うように、 蓮の花の燭台の和蝋燭を高く掲げる和服の奇人である。 ぼろぼろの着物がまるで蝋燭の溶けた蝋のようであるが、炎 という灯りの共通性・共有性をキャンドルの炎と誇らしげ に唱和しているのだ。 74歳の舞踏家大野一雄が欧州で公演した時は、きっと こんな光景が生まれていた気がする。 命の灯を掲げるように、大野さんは踊ったに違いない。 そしてその灯の輝きが、風俗・伝統を超え人の心を撃ったのだ。 もうひとつ非売品としている横長の大きな作品2点がある。 それは、キャンドルとワイングラスの下で闘うふたりのサムライ の絵である。 一枚は離れて闘い、もう一枚は接近し闘う構図だ。 そして接近して闘う画面では、ひとつのワイングラスが倒立し 倒れている。 和と洋の唱和だけではなく、サムライの闘いの中で洋の日常は 時に打ち倒されても行く事を暗示している。 そのようにこれらの画面を俯瞰して見れば、トースト・目玉焼き ・ソーセージ等の朝食文化は戦後米国近代化を暗示し、ワイン・ ワイングラス・キャンドルの夕餉は欧州近代化をイメージさせる。 二つの近代化の下に必ず顕れる浮世絵風人物は、それ以前の日本 そのものと思われる。 尊皇攘夷・千年の都、京都で感受した橘内光則の日常のリアリテ イがそこに反映している。 13年前、札幌を出ます、東京に行くつもりです、と話した彼に 何故東京なのか、と聞くと別に東京に目標はなく、道外という 意味と解った。 そこで京都にいる友人の事を思いだし、京都を勧めた。 それが今結果的には良かったと思える。 何故なら、東京とは改名した街江戸であり、皇居とは江戸城の 改名であり、日本の近代化の国家的衣装チェンジ・コスプレの 中心だからだ。 それは開国と同時に鹿鳴館衣装のように文明開化の起点とも なっていく。 新奇を好む好奇心や憧れから日常に寄り添ってゆく近代では なく、ハードな国家的強力な体制化という近代化とは、本質的に 一線を画するものがある。 京都でワインと、東京でトーストでは、近代の染まり方、取り入 れ方が違うのである。 個から国家単位に位相が移動する。 都は帝都となり、近代化とは東京化・大都市化帝都主義として 地方を吸収してゆく今に繋がっている。 そんな東京で橘内光則の絵画に浮世絵の人物が、嬉しそうに活き 活きと躍る事はきっと無かったかも知れない。 新幹線だ、オリンピックだ、国際芸術祭だと様々な領域で空洞 を露呈しつつ大都市主体の構造化が進んでいる。 もう東京は東京だけの問題ではなく、構造的な大都市中軸の 都市帝都主義となって顕れているかに思える。 物理学の基礎研究の空洞化、築地市場移転地の空洞問題、高層 マンションの杭打ち偽装の空洞化、高級食材の産地偽装の空洞化 そんなあらゆる分野の空洞には、決して浮世絵の人物達は喜々 として躍りながら顕れる事はないだろう。 *橘内光則展「土曜の夜の夢」ー10月30日(日)まで。 am11時ーpm7時:月曜定休。 *ホピ&カチーナドール展ー11月1日ー6日 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2016-10-15 14:44
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