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2016年 09月 30日

踵と爪先ー撓む指(34)

長時間の治療を受ける身となって、夜の帰路
電車ー歩行で気付いた事がある。
最初は電車での移動、そして停留所から山へと
近づく緩い坂道の歩行。
その違いは足裏の感覚だった。
坂の斜面の分、足裏は爪先への力と交互に踵へ
と力が加わる。
歩く、動く事の身体的基本がこの交互の重心
変化によって成立している事が新鮮な発見に
思えたのだ。
そこから。踵の視座と爪先の視座が思考された。

今回の展示でもそうした意味で私が興味深く感じ
たのは、尾道の野上裕之の作品と網走の佐々木
恒雄の作品だった。
札幌育ちの野上さんは、遠く尾道で船大工をし
ながら、彫刻を創っている。
佐々木さんは札幌から故郷網走へ帰り、父の職業
漁師の仕事に従事し絵を描いている。
同じ頃札幌を離れたふたりが、移動ー移住の先に
選んだ場所は他郷と故郷の相違があり、それが
今回の作品にも顕れていると感じた。

野上裕之の彫刻作品。
黒光りする木彫りの巨大なカラス、その顎には缶
コーヒーアルミ箔が巻き付いている。
選んだ一首は

 世界に告ぐ空を見ながらたそがれてあくびをするな顎を外すぞ

緩く緊張感の喪われた現代社会への痛烈な批判が
籠められたこの一首に、黒く光るカラスはそうし
た社会の象徴として大量生産・大量消費・大量破棄
の缶コーヒーの顎止めをしていると考えられる。
そして同時に船大工という現在の鋼鉄船主体の造船
業界では時代遅れの仕事に従事している現実が反映
されているとも思えるのだ。
黒く大きなカラスは鉄鋼船そのものにも見えるし、
カラスの顎の缶コーヒーアルミ箔は、造船業界の
効率本位の船造りへの批判とも感じられる。
船も今や身体エネルギーを遠く離れた機械動力の
巨大な建造物のひとつなのだ。

かって海に憧れていた私の友人が商船大に入り卒業
行事の帆船日本丸で太平洋を渡り、興奮していた事
を想い出す。
そして就職し何十万トンかの石油運搬船を操縦し
海外を往復する仕事への幻滅を語っていた。
十数人の乗組員、機械操作、着いた荷下ろし港は
無機質なコンクリート風景。
帆柱を登りマストを張り波風を体で感じ緑の島を廻る
、あの体で感じる海の喜びがないんだ、そう語っていた。
そして彼は休暇の時いつも山へと誘った。
頂上から街を見下ろす私に、こう言った。
”あんな石ころ・・!”
そしてさらなる緑繁る山奥へと瞳を向けていた。

野上裕之の作品を見ながら、私はこの事を想い出し
ていたのだ。
鋼鉄のような黒いカラス、そして顎の缶コーヒー
アルミ箔。
そこに深い森の奥の緑に飢えていた海の男の
眼下に林立するビル群に吐き捨てるように出した
言葉が重なるのだ。
”あんな石ころ”

野上裕之が故郷を離れ異境の地で生きている移動
の重心には、爪先の志向が今も活きていると思う。
明日は佐々木恒雄の故郷への帰還、踵の重心につ
いて思考する。

*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー10月2日まで。
 am11時ーpm7時。
 参加作家 森本めぐみ(美術)野上裕之(彫刻)佐々木恒雄(絵画)
 野崎翼(折り紙)成清祐太(映像)森美千代(書)酒井博史(篆刻)
 竹本英樹(写真)久野志乃(絵画)。

 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
 tel/fax011-737-5503
 

by kakiten | 2016-09-30 13:06 | Comments(0)


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