産後のベッドから一つの絵が届いた。
久野志乃さんの絵画である。
展示を急ぎ触れた親指に、絵の具の痕が付いていた。
初日に間に合うように、ぎりぎりまで描き続けた作品だ。
選んだ一首は
鉄塔の見える草原ぼくたちは始められないから終われない
出産という人生上の身体的大経験。
それを経た女性の本質的な強さを秘めた選択だと思う。
始めも終わりも無い、未だ、未だの今なのだ。
どんな小さな日常にも、ひとつの選択には個人的なわけがある。
今回の一首を選ぶ選択にも、それぞれ生活日常の個人的わけがある。
その喉の奥の深い声が、すべての作品に響いている。
31文字の一首は、それぞれの作家の喉の奥の声となって、固有の
音色を響かせている。
山田航の短歌のひとつの声が回路となって、他者の喉の奥で別の
日常に木魂している。
森美千代<あをきまなざしよ散るな>・
成清祐太<輝きはなだれゆき>・
森本めぐみ<運転手フロムフイリピン>・
野上裕之<たそがれてあくびをするな顎を外すぞ>・
佐々木恒雄<タンク内部にさざなみをつくり>・
竹本英樹<みんなあれが底なき渦と>
・・・・
これらの言葉にキーとなる声の喉仏を感じるのだ。
どんな小さな選択にも個人的なわけがある。
そこに日常の下の深い亀裂が覗く。
亀裂は声なき声となって、作品に形象を与えている。
初日、空間は木魂する声のオーケストラ・交響となった。
*それぞれの山田航「水に沈む羊」展ー9月20日(火)ー10月2日(日)
am11時ーpm7時:月曜定休。
:参加作家 森本めぐみ(美術)・野上裕之(彫刻)・佐々木恒雄(絵画)
野崎翼(折り紙)・成清祐太(映像)・森美千代(書)・酒井博史(篆刻)
・竹本英樹(写真)・久野志乃(絵画)
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