14,5年前ふたりの青年が、札幌を旅立って行った。
ひとりはサハリン経由でベルリンへ。
もうひとりは京都へ。
ふたりは親友だったが、方向は南北に分かれた。
その数年後同じ友人のふたりの青年が札幌を離れた。
ひとりは網走へ、もうひとりは沖縄へ。
旅立ちベルリンに拠点を築いた谷口顕一郎は昨年、札幌で
初の授賞となる本郷新賞受賞の個展を開いた。
その授賞の対象となったのは、故郷札幌の地で見つけた
暗渠の川の軌跡を素材とした作品であった。
出発の背後にあった故郷が新たな世界を見せ、故郷は彼に
背後ではなく、彼の前方に今新たな世界を垣間見せていた。
故郷の網走に帰り、父の仕事を継ぎ漁師となった佐々木恒雄
は、生活の日常の中から新たな絵画の起点を発見し札幌で
披露している。
沖縄へ向かったチQ君は、祖母の死、父の死を機に札幌へ
帰り、祈りの絵画を今描き続けている。
そして、谷口顕一郎とほぼ同じ時期京都へ旅立った橘内光則
は、旅立ち後初の個展を故郷で開く。
彼が札幌を出ると聞いた時、東京に行くという事だった。
この時彼は故郷以外の地として、漠然と東京という言葉を使っ
ていた。
そう気付いた私は、職人的な性格で描く絵画も超リアルな人間
描写をする橘内には、関西の方が良いと思い友人の陶芸家で
京都芸大で教鞭をとっていた川口淳のいる京都を勧めた。
そして16年、旅立ち直前の個展以来初めての個展が今年
10月開かれる。
札幌で親友であった二組が、何故か南北に別れ旅立つて行った。
そしてかって背後にあった地を、今それぞれが新たな旅立ちの
ように見詰めている。
内への旅立ち。
背後の森が深々と立ち上がっている。
今彼らには、出発の後の、根の時間が訪れているのだ。
故郷の外に在った新しい世界の経験が、再び内なる故郷を
新たな視角で照射してくる。
旅立ち、跳んだ後に来る着地の時間が、出生の土壌を見詰める
ように訪れてくる。
根の時間。根の世界。
人はそうして、自分を、故郷を再発見する。
自縛し拘束する故郷ではなく、旅立つ・出発ーの<立つ>・
<発>ーの土壌の地を今見据えているのだ。
こうして旅立った4人は今、一回り大きな、そして痛さと豊か
さを秘めた転機の時間にいる。
*山田航「水に沈む羊」展ー9月20日ー10月2日。
*橘内光則展ー10月8日ー30日
*森本めぐみ展ー年末~年始予定。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503
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