2016年 06月 24日
書物の大きさ・厚さで掌に受けた時、ある種心地よい 質感を感じる事がある。 英国で出版されたロジャー・アックリングの追悼本も そうだったが、吉増剛造展で出版された画集もそうである。 掌(てのひら)全体で受け留める厚さ・大きさなのだ。 かって道具も物もそうした掌心を保ったモノたちであった 気がする。 現在坂ビスケット本社と立ち退き闘争を闘っているレトロ スペース坂会館に展示されているモノたちも、みなそうし た感触を保つあらゆる分野の道具たちモノたちである。 玩具とか人形とか一種類に偏らず雑誌・嗜好品・学生運動 関連・調度品・生活用具と、今は生活から遠のきしかし 未だ十分使用できる同時代の裾野に零れたモノたちである。 とりあえず、身近に在ったこれらのモノたちが、何時の間に か消去され記憶の片隅に追いやられていた。 それらが一種多彩で多種に層を成してレトロスペースに 蓄積され並んでいるのだ。 これは現代という大量生産・大量消費・大量破棄の消費社会 に対する同時代の裾野からのモノたちの逆襲・対峙の世界 でもある。 東京国立近代美術館の「声ノマ 全身詩人吉増剛造」展と 共通するのは、この道具・モノたちがある意味で主役となっ て基底に存在する事だ。 吉増展の各コーナー(桟敷)の仕切りは作品を生み出す道具 による区分である。 作家の掌の<たなごころ>の延長として道具があり作品が 生まれ、それらが展開・展示されている。 一方レトロスペースは、すべてモノたちが主役で坂館長自身 が創作したわけではない。 しかしその手元に集まってきたモノたちは、作り手も所有者 も掌(ななごころ)で愛しむ感覚が生きている時代のモノたち である。 従ってこのふたつの世界に共通するのは、非常にラディカルな モノ・道具への愛ともいうべきサカ・ヨシマスランドの形成 その世界観・価値観の結集体である事だ。 この価値観・世界観の発露は、最初に超高層ビル群摩天楼を 見切って新たにショッピングモールを創造したある時代の アメリカを想起させる。 真に人間らしい買い物空間として、建物は地上二階地下一階 を設定し、内に川を流し、小さな森を造り、陽光が射し、あり とあらゆる店舗形態を集合する。 それがヒューマンスケールだと決めて造られたのだ。 多種民族移住者国家アメリカのそれぞれの故国に無い自由の女神 の迎える超高層ビル群摩天楼の大都市風景。 その風景の実現の上で、ヒューマンスケールというショッピング モールへの展開がある。 日本の現代は依然として摩天楼志向であり、同時にショッキング モールも取り入れ、恰も時代の最先端の如く錯覚している。 もともと日本にはショッピングモールなど門前町、寺前町、駅前 通りという伝統的な商店街スタイルとして存在していたものだ。 そういうレトロは捨て去り、大企業主体のショッピングモール 形式だけを衣装の如く羽織ぅている。 元々の血の通ったレトロは切り捨てられ、町や道具たちのモノの心 の声を聞こうともしない。 鹿鳴館以来日本の近代化とは、一面で官民あげた欧米コスプレ状況 なのだ。 その危さを、全身詩人吉増剛造とレトロスペース坂一敬は同時代の 裾野を持ち上げ闘っているのである。 札幌と東京で図らずもふたつのランドがコンテンポラリーな闘いを それぞれのランドとして顕在化している。 根底的で先鋭な坂ランドとヨシマスランドは、現代日本が生んだ 極めて知的なデイズニーに負けぬこの地の夢の国(ランド)なのだと思う。 *「石狩・吉増剛造 1994」-7月31日まで。 am11時ーpm7時:月曜定休(水・金・都合により午後3時閉廊) :「声ノマ 全身詩人 吉増剛造展」-8月7日まで。月曜定休 東京国立近代美術館ー東京都千代田区北の丸公園3-1 :レトロスペース・坂会館ー札幌市西区二十四軒3条7丁目3-22 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き tel/fax011-737-5503
by kakiten
| 2016-06-24 13:34
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