2016年 05月 20日
最近手の届く範囲の範囲を思う。 それは五体五感の許容する触れる世界。 健康で行動範囲が広ければ世界もその分広がるし、 行動範囲が狭まれば、世界もそれなりに限定される。 しかし現代はある時期から、行動範囲に関わりなく 仮想現実範囲をも提供するようになった気がする。 そこには道具という手の延長の存在が、機械という 増幅装置に代わり本来手の届かぬものがあたかも 手に届くかのように機能している。 先日山里さんが十能という石炭時代のストーブの 道具をFBに載せていた。 石炭ストーブの石炭を補給する際に使われた小さな スコップのような鉄の道具である。 石油時代になりそれは消えた。 今はプラステックのポンプがそれに変わる。 石油時代は多くの道具がプラステックに代わり、ご飯 を盛るヘラもそうである。 他の多くの調理道具もそうだ。 これらは安く大量に製造され軽く便利である。 しかしその製造や破損時にはもう人の手は及ばない。 製造は型で機械的に量産され、破損時には修理は 無理で捨て去るしかない。 素材そのものが工業化学製品で、木や鉄のような自然 素材から離れているからだ。 存続の危機にあるレトロスペース坂会館に展示されて いる多くの物のほとんどがそうした手の届く範囲で作ら れた日常にあった道具・嗜好品である。 我々の時代というのは、この手の範囲の境目を含む 時代空間と思う。 山で言えば裾野のように、今を頂上とする記憶の裾野 にこれらの道具・モノたちが息づいているのだ。 contemporary(同時代)とは、この記憶の裾野も含め た時間・空間を言うのではないのか。 最先端のナウ・今だけが、高嶺の白雪の如く崇められ、 まるで裾野・中腹の喪失した鉄塔のような薄気味悪い 山を想像する。 そういう薄気味悪い現代とはあらゆる場面で現実であり、 裾野・杭を喪った高層マンション、産地偽装の高級料理 データー偽装の低燃費自動車、大都市重視で中小都市 切り捨ての高速鉄路。 かっての手紙・電話よりはるかに便利なパソコン・スマホ といった伝達道具も2,3年で廃棄・交換に迫られ、手で 修理も出来ない最新機械だけが価値ある代物となる。 痩せ細る先端だけの時代。 レトロとは懐旧趣味を言うのではない。 時代の記憶の裾野・根の復権をいうのだ。 尖った黒い靴先のように、突っ走る先端だけを現代と思うな。 紅衛兵が振り翳す毛語録のようにスマホ写録を振り翳す 最新機械ファショは、あまりにも脆弱な単細胞回路である。 ニューはすぐにまた新たな新に取って代わられるだろう。 新旧の区別は時代の一現象に過ぎない。 レトロスペースに集結したモノたちは、時代の裾野・中腹の 記憶である。 それらが存在意思するものは、同時代という時間の山脈 からの木魂なのだ。 手の届く範囲を忘れるな、手の届かない物の怪に支配され るな。手の届く同時代を思い出せ。 便利・簡単・最新の狭い一点に時代があるのではない。 それは狭い痩せた尾根、すぐ転げ落ちるぞ。 そんな色んな声を発している。 手の届く範囲を超えた向こうには、大都市風俗帝国主義と 機械回路個人ファシズムの気味悪い世界が広がっている。 その境目を意識してこそ、contemporaryという同時代は 意味ある意識なのだと思う。 *「石狩・吉増剛造」展ー6月5日まで。am11時ーpm7時:月曜定休 :水・金午後3時まで。 テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き tel/fax011-737-5503、
by kakiten
| 2016-05-20 13:34
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