収蔵作品を展示する。
コンセプトは「記憶と現在」。
それぞれの作家の個展時の記憶と現在単独に作品が
語りかける今という現在を今の目線で組み合わせ再構成
してみる。
作家個人に引き寄せられていた作品が、作家を離れて
作品自体の宇宙で他の作家の作品と交響し顕れる時空
がコンセプトである。
年齢も発表時の状況も個性も違う作品が発表時の作家の
囲いを離れて、作品自体が内包する宇宙を交叉させ空間
が生まれる。
この時キーとなる作品は作品自体が内包する宇宙に在り
作家自体は遠く背後に沈み額縁のような存在になる。
今回展示してキーとなった絵画はやはり村岸宏明の絵だった。
八木保次・伸子さんの絵画と並べ正面に飾った。
80余歳で亡くなられた八木ご夫妻。
22歳で亡くなった村岸君。
しかし作品はその年齢差を少しも感じさせないものと
私には映る。
札幌の北の春の色彩を抽象と具象で光のように追求した
札幌生まれの八木夫妻。
その晩年の瑞々しい色彩は、福寿草の黄とフキノトウの緑
のように今新鮮だ。
一方村岸君の暗い赤の背景に黒い両脚と白い骨のような手
だけの作品は、八木さんたちの北の風土への目線と違う時代
の目を示唆して感じられる。
そのどちらもが私たちを取り巻く今なのだ。
自然という固有の北の色彩環境。
社会という固有の同時代環境。
どちらもが日々日常に追われ見失う内と外の色だ。
端的に括れば、我々を取り巻く自然・社会の今を表現するもの。
個々の作品の深度が、一度に並べると少しも私には違和感なく
肩を並べて見ることができるのである。
大学受験を終えたN君から電話が来る。
これから伺いたい、という。
程なく、落ちちゃったあ~と、N君が来る。
一年浪人という。
理系ながら折り紙創作もする彼は、多感で優秀な若者だ。
山田航さんの第二歌集「水に沈む羊」も購入し読んでいる。
受験勉強で大変だろうが、この歌集を主題とする展示会には、是非
彼も参加してもらいたいと思っている。
今日ふたりの初対面もある予定だ。
記憶と現在。
記憶という過去と過去に埋没しない現在。
そのかけがえのない今を、ともに過ごす。
遠い夜空の風の渚。
鉄鋼綱の鉄柱にあたる打撃音。
ふっと振り仰いだ同じ視線の時間。
ふたりの今日の時間を、並べたばかりの「記憶と現在」の
会場で待っている。
*「記憶と現在」展ー3月29日(火)-4月10日(日)
*それぞれの八木保次・伸子展ー4月12日(火)ー23日(土)
*鼓代弥生木彫平面作品展「駅」ー4月26日(火)ー5月1日(日)
テンポラリースぺーs札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
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