吉増剛造の吉本隆明を語る声を会場に流しながら、
ふたりの手が触れる世界観を思っていた。
近代日本のモダニズムの流れと日本ナショナリズムの
本道の地下茎とが、触れる光と水のように根と梢のよ
うに、日本という一本の木の中で出会っている。
ふたりには根と梢の触手という世界に触れる回路がある。
その事への信頼こそが共通のランドとしての日本なの
かも知れない。
近年話題になるアニメの登場人物に扮装するコスプレ
文化。
ハローウインや10年ぶりに公開されるスターウオーズ
の映画で同じように登場人物に扮装する現象がある。
憧れるものへの同化願望とも思えるコスプレ文化現象。
これを見ていて、ふっと国家が本気でそうしたコスプレ
を推進した時代を思った。
鹿鳴館である。
西洋化、近代化に邁進した明治のコスプレ化。
その表層的モダニズムは、真には根を下ろさずもう一度
鎖国のような国粋主義の波に呑まれてゆく。
そして敗戦。
今度は占領国アメリカ文化が押し寄せてくる。
そして政治理念民主主義とともにより大衆的でヤングな
アメリカ風俗としても現象化する。
その流れに最近のコスプレ化現象もある気がするのだ。
晩年吉本隆明がファッション雑誌のモデルをして話題を
呼んだ事がある。
吉本はそうした風俗現象の次元まで、意識の改革の現場を
見詰めていた気がする。
現象から実体を通底し本質への回路を探っていた気がする。
日本の文化の本質を探究し構築し続けた思想詩人の日常
現実への飽くなき回帰。
その象徴が吉増が気づいた吉本の手の動き。
講演の合間の待ち時間で、無心に機械道具を弄る吉本の、
世界に触れるような手の動き。
ゼロ戦飛行機制作に関わった父の子である吉増の技術者の
血。下町の船大工職人であった吉本隆明の生家。
日本の手の文化の系譜がふたりの回路となって、思想とし
て開いている。
吉増さんの吉本追悼の録音を聞きながら、革めてそんな
思いを感じていた。
モダニズムの扮装・コスプレ化が真に根付く、
思想の手の握手。
根付く・・・輸入された明治のポプラの樹のように
というドラマだ。
+吉増剛造展「怪物君 歌垣」-1月10日(日)まで。
am11時ーpm7時:月曜定休・正月3ヵ日休廊。
:参加作家 鈴木余位(映像)・村上仁美(花)・山田航(歌)
;フライヤー制作 中嶋幸治 酒井博史
:会場構成 河田雅文
*高臣大介ガラス展「みつめあう。」ー1月26日(火)-2月7日(日)
前後期2週間。
テンポラリースペース札幌市北区北16条西5丁目1-8斜め通り西向き
tel/fax011-737-5503
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